164人が本棚に入れています
本棚に追加
迷子センターに辿り着き、まなちゃんのことを係の女性に伝えると、
「では園内放送をかけますね」
係の女性は頷いて、私たちにそう請け負ってくれた。そしてまなちゃんに向かって身をかがめると、
「お母さんが見つかるまで、まなちゃんはここでお姉さんと一緒に待っていようね」
優しく目を見つめて微笑んだが、
「いや。まな、おうじさまといっしょにいる」
まなちゃんは黒川君の手をぎゅっと握り、イヤイヤをするように首を振った。
「まなちゃん、お母さんはここに来るんだよ」
私が諭しても、
「いや」
まなちゃんは首を振るばかりだ。
「困りましたね……」
係の女性が弱っているのへ、
「では、僕が一緒にいますよ。お母さんが見つかったら、スマホに電話を入れてもらえますか」
この時ばかりは真面目に、黒川君が係の女性へ提案した。
「そうですか?」
「ええ。任せてください」
とん、と胸を叩き、キラキラとした笑顔を浮かべた黒川君に、女性はノックアウトされたらしい。
「そ、それでは、お願いします……」
上ずった声で頷いた。目の中にハートマークが浮かんでいるのが見えそうだ。
「さて、お母さんが見つかるまでどこに行こうか?」
迷子センターを出た私たちは、再度まなちゃんの両手を握り、歩き出した。私が行き先を考えていると、
「リトルレディ、楽しい場所へ連れて行ってあげる♪」
黒川君が笑顔でまなちゃんに歌い掛けた。
「えっ、どこ?」
「きっと君が気に入る、楽しい場所だよ~♪」
黒川君が歌うたび、まなちゃんは楽しそうに声を上げて笑っている。
最初のコメントを投稿しよう!