夢の国で歌えば

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 黒川君の先導で、私たちはお伽噺の国という場所に着いた。いかにも子供が好みそうな、ポップで可愛らしいアトラクションが軒を連ねている。赤い屋根の小さな家の前では、ウサギやクマの着ぐるみ達が、子供たちと写真を撮っていた。 「わぁ!ラビィとベアリンだ!」  まなちゃんは嬉しそうな声を上げ、駆け寄って行く。きゃっきゃっと声を上げ、着ぐるみに抱き着いているまなちゃんが可愛かったので、私はスマホを取り出すとカメラモードにし構えた。すると、側で掃除をしていたクルーがそれに気づき、 「よろしければ、3人でお撮りしますよ」 と声を掛けて来た。 「それなら……」  私はスマホをクルーに預けると、 「黒川君、写真を撮ってくれるって」 まなちゃんを見守っていた黒川君を呼ぶ。  ウサギの着ぐるみを挟んで3人で立つと、 「笑って下さ~い。はい、チーズ!」 クルーがいい笑顔で掛け声をかけ、写真を撮ってくれた。 「ありがとうございます」  お礼を言ってスマホを受け取り、撮ってもらったばかりの画像を確認してみると、そこには、満面の笑顔のまなちゃん、微笑みを浮かべる黒川君、目を閉じた微妙な表情の私が写っていた。 (私だけ目を閉じてる……!)  若干ショックを受けたが、これはこれとして仕方がない。これで弟に写真を見せるというミッションをこなせそうだ。  ほっと胸を撫で下ろした私は、もう一度画像に目を落とした。 (……なんだか、子供のいる若夫婦みたい……) と考えて、思わず体温が上がる。 (いやいやいや!それはない!)  慌てて首を振っている私に、 「どうかしたの、マリー♪」 黒川君が歌いながら問いかけた。 「何でもないよ、ピーター♪」  それに歌で返しながら、 (なんだかミュージカルモードの黒川君に慣れて来てしまった) そんな自分に苦笑してしまった。
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