女同士のデート

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 黒川君が、最上先生の退職についてどう感じているか、分からないまま、数日が過ぎた。その間、席替えがあり、私は廊下側の席へと移動することになり、黒川君と香澄はその隣の列の、一番後ろと後ろから2番目に決まった。仲の良いふたりと離れてしまい、少し寂く思う。  そんなある日の朝、教室に入って来た黒川君は、 「みんな、オハヨ~☆」 女子の制服に身を包み、茶髪のロングヘアをツインテールにしたギャルになっていた。 「えええ~っ!!?ど、どうしたの、黒川君!?」  色物イケメンモードは散々見てきたが、女の子姿は初めてで、私は仰天してしまった。 「あ、朱音~!オハヨ~!」  カバンを肩に担ぎ、つかつかと自分の席へ向かう途中、黒川君は私を見てにかっと笑った。自分の机にカバンを置き、私のところへ戻って来ると、 「見て見て!朱音」 黒川君は、まるで親友を呼ぶかのように私の名前を呼び、顔を近づけた。長いまつげに綺麗にマスカラが塗られていて、アイシャドウの印影と相まって、いつもより目が大きく見える。意外と女装が似合っていて、違和感がない。 「このネイル、滅茶苦茶可愛くない!?」  顔の前に差し出された指には、派手な紫のラメのネイルが施されていた。 「…………」 「へえ、可愛いわね。どこの?」  私が呆気に取られている間に近づいて来た香澄が、ごく普通に黒川君に尋ねる。 「えへへ、これ100均のだよ!綺麗な色でしょ」 「私も買いに行こうかしら」 「色が鮮やかで、おすすめだよ」  女子トークを繰り広げているふたりについて行けず、私は目を白黒させるばかりだ。  普段、色物イケメンモードの時の黒川君を見慣れているクラスメイトも、男の娘モードの黒川君はさすがに珍しかったようで、今日1日、彼は男子の人気者だった。一応美人ではあるので、何枚もスマホで2ショット写真を撮られている黒川君を見て、女子はみんな苦笑いをしていた。
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