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放課後になると、黒川君はおもむろに化粧ポーチを取り出し、化粧直しを始めた。ピンク色の口紅を塗り、チークを入れ、ビューラーでまつ毛を上げ直す。
(女子力高っ!)
私よりよっぽど美容に力を入れている黒川君を見て、複雑な気持ちになる。
(男の娘モード、いつまで続くんだろう)
どうにも調子が狂っていけない。心配していたのがバカみたいな気持ちになってくる。
(帰ろ……)
私はカバンを手に取ると、立ち上がった。
すると、
「朱音」
黒川君に下の名前で呼ばれて、私はドキッとして足を止めた。振り返ると、いつの間に化粧直しが終わったのか、カバンを手にした黒川君が、茶目っ気のあるまなざしで私を見つめている。
「これから、アタシと遊びに行こうよ」
「えっ?」
私が戸惑っている間に、黒川君は私の手を取った。
「行こ!」
「ちょ、ちょっと待って、黒川君!」
彼に引っ張られるまま、教室を飛び出す。
バタバタと廊下を走る私たちを、隣のクラスの担任の先生が、
「廊下は走らないの!」
と注意をしたが、
「あんな子、うちの学校にいたかしら……」
黒川君の姿を見て、首を傾げていた。
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