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黒川君に引っ張られるまま電車を乗り継ぎ、私たちは繁華街へ辿り着いた。若者の多い街だけあって、平日の夕刻前だというのに人が多い。
「黒川君、どこか行きたいところがあるの?」
狭い道に軒を連ねる服屋や雑貨屋、カフェを眺めながら彼に問いかけると、
「別に~。ただ朱音とブラブラしたかっただけ」
黒川君はそう言って、私の腕にひっついた。傍目には、仲の良い女友達が、いちゃいちゃしているだけに見えるだろう。
(まあ、いっか。今日は黒川君の行きたいところに付き合うことにしよう)
とりあえず、細かいことを考えるのを放棄した私は、開き直って、この状況を楽しむことにした。
「あっ、あっちにタピオカドリンクのお店がある!」
一際行列の出来ている店を見つけると、私は指を差した。
「じゃあ、タピ活しよっ」
黒川君は楽しそうに笑い、私の手を引くとタピオカの行列に加わる。列に並ぶ間、暇つぶしに自撮りをしている黒川君を見て、
(完全に女子だなぁ……)
私はすっかり女友達と遊びに来ている気分に変わってしまった。
しばらくして無事にタピオカミルクティーを手に入れた私たちは、ふたりで自撮りをした後、飲みながら通りを歩き、気まぐれに目に付いたお店へと入った。
アクセサリーショップに入ると、私は小さなお花とパールの付いたイヤリングを見つけ、
「わぁ、このイヤリング可愛い!」
と歓声を上げた。値段もお手ごろだ。けれど、先程タピオカミルクティーも飲んだところだし、アルバイトをしていない身の上には、少々キツイ。
「う~ん、どうしよう……」
頭を悩ませていると、
「朱音、何見てるの?」
黒川君が私の手元をひょいっと覗き込み、そう問いかけた。
「このイヤリング可愛いなぁって思って。買おうかどうしようか迷ってるの」
お花とパールのイヤリングを黒川君に見せる。すると彼は、
「分かった。アタシが買うね」
と言って私の手から、さっとイヤリングを取り上げると、レジへと向かう。
「えっ?黒川君?ちょっと待って」
私の制止の声も聞かず、さっさと会計を済ませてしまった黒川君は、私の手を握り店の外へ出ると、はい、と紙袋を差し出した。
「プレゼント」
「そんな、黒川君。私、貰えないよ。誕生日でも何でもないのに」
困惑した表情を浮かべると、
「いいから」
と言って、彼は私の手に紙袋を押し付けた。
「今日、アタシに付き合ってくれたお礼だから」
にっこりと笑顔を見せられると、断るのも気が引けてくる。
「じゃあ……貰うね。ありがとう」
おずおずと紙袋を受け取ると、黒川君は嬉しそうに笑った。
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