女同士のデート

5/6
159人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
 その後、服屋で試着をしたり、ドラッグストアで化粧品のテスターを試したりと、あちこちの店を冷やかした後、薄暗くなって来たので、そろそろ帰ろうという事になった。  通りを歩き、駅へと向かいながら、隣を歩く黒川君を見て、ふと、 (モードチェンジしている時の黒川君って、どれぐらい素の黒川君の自我を持っているんだろう) と不思議に思う。 (それって、聞いてみてもいいのかな?)  もしかするとパンドラの箱を開けてしまうかもしれない。  けれど気になる。  私は、黒川君の顔を見ると、 「ねえ、黒川君」 と思い切って口を開いた。 「黒川君って、今、どれぐらいの割合で黒川君なの?」 「は?」  聞き方が悪かったのかもしれない。黒川君はきょとんとした顔で私を見た。   「100%、アタシだけど」 「そ、そうですよね~……」  余計に聞きずらくなってしまった。私は言い方を変えて、 「じゃあ、黒川君はなんでそんなに色んな人格に変われるの?」 と聞いてみる。  すると彼はふと真面目な顔になると、一度唇を人差し指でなぞり、 「たぶん、役に染まりたいと思っているから……かな」 静かにそう言った。 「染まりたい?」 「そう。誰よりも巧く演じたいから」 「…………」 (黒川君は、真剣に仕事に向き合ってるプロなんだな……)  ふいに彼が自分より遠く離れた場所にいる人のような気がして、黙り込んでしまう。そんな私に気づいたのか、黒川君は、 「でも、なかなか巧く演じることが出来ないんだ。もっともっと色んな人と関わって、色んな面を見て勉強したくて、それで……」 そこで少し言い淀み、 「……色んな人と付き合ったりしてる」 ばつが悪そうに告白した。 「じゃあ、黒川君が『来るもの拒まず』なのは、演技の勉強の為なの?」  こくりと頷いた黒川君を見て、呆れ半分納得半分で無言になってしまった私に、彼は焦ったように、 「あっ、でも朱音は違うよ?朱音は、アタシにとって……」 何か言いかけた時、私は前から歩いて来たふたり連れの若い男性に思い切りぶつかってしまった。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!