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オレ様王子の誘惑
「お母さん、このりんご何?」
学校から帰宅しリビングに入った私は、ダイニングテーブルの上に沢山のりんごが並べられているのを見て、首を傾げた。
「スーパーで特売でもしていたの?」
安売りだったとしても買い過ぎだ。すると、キッチンで夕飯の準備をしていた母親が、
「違うわ。りんごの頒布会に入ったの」
と言いながら顔を出す。
「頒布会?」
聞きなれない言葉だと思って聞き返すと、
「りんごの定期購入ってところね。毎月色んなりんごが届くのよ。楽しみでしょ?」
と、母親は笑顔を浮かべた。
「へえ~、毎月届くんだ」
テーブルの上から赤く熟れたりんごをひとつ手に取ると、くるくると回してみる。このままでも充分美味しそうだが、
「お菓子にしても美味しそう」
思わずそう口に出したら、母親が「あら」という顔をした。
「お菓子を作るなら、使ってもいいわよ。幾つもあるんだし。その代り、私にもご相伴させてね」
ちゃっかりした母親の言葉に苦笑する。
(そういえば、前に家庭科部でりんごのパウンドケーキを焼いた時、黒川君すごく喜んでくれたっけ。また焼いて、持って行ってあげようかな……)
私は、
「それならひとつ私にちょうだい」
母親にそう頼むと、手に持ったりんごをテーブルの端に避けた。
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