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秋とはいえ、まだ夏の名残を感じる9月の下旬。
今日は、我が校の体育祭だ。
体育祭実行委員になった私は、競技が終わるたびに、トラックを片付けたり、次の競技の準備をしたりと忙しい。
「うちのクラス、今、何位なんだろう」
気になって得点板を見ると、隣の2組といい勝負で競っている。
「次の競技は100メートル走か」
1着が多ければ、抜くことが出来るかもしれない。確か女子では隅田さんがエントリーしているはずだし、希望が持てそうだ。
「ええと、男子は誰だろう?」
集合し始めた男子に目を向けると、ギャラリーに手を振っている黒川君の姿が見えた。
「黒川君が走るのか」
前に街でガラの悪い男性に絡まれ一緒に逃げた時のことを思い出し、彼はそれほど足は遅くないはずだと踏んで、私はますます2組に勝った気持ちになった。
すると、
「黒川せんぱーい!」
「頑張ってくださーい!」
1年生のいる方向から、黄色い声援が飛んだ。どうやら一部の1年生の中に、まだ黒川君に幻想を抱いている子がいるようだ。
(そういえば最近は、黒川君が誰かと付き合っているとか、告白されたという噂は聞かないなぁ)
そんなことを考えていると、
「オレの俊足に酔うがいい、愚民ども!」
黒川君の高飛車な台詞が聞こえて来た。今日の彼は、どうやらオレ様王子モードのようだ。
「相変わらず、面白いなぁ、黒川君は」
私がくすくすと笑っていると、
「文月さん、次、テープ係お願いね」
体育の本宮先生に名前を呼ばれた。女子バレー部顧問でもある本宮先生は、すらりとした体を黒いジャージに包み、手にピストルを持っている。キリッとした雰囲気と相まって、なんだか女スパイのようだ。
「はい、分かりました!」
私は本宮先生に返事をすると、ゴールの場所に向かって走った。相方の女子は2組の庄司さんだ。彼女からテープの片方を受け取り、コースを挟んでピンと張る。
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