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準備が整ったところで競技が始まった。
本宮先生が軽快にピストルを撃ち、それを合図に、次々と選手が走って行く。
「やったあ!隅田さん、一着だね!」
圧倒的な強さで他の選手を引き離し、一着を取った隅田さんに、私はハイタッチをした。隅田さんは、
「当然」
とばかりにピースをすると、「1」と書かれた旗の後ろへと向かう。
「次は男子……黒川君の番だ」
スタート位置についた黒川君が目に入り、私はぎゅっとテープを握り締めた。
(頑張れ!)
心の中で声援を送る。
パン、という発砲音の後、男子たちが一斉にスタートを切った。黒川君は一瞬出遅れたが、すぐに巻き返し、次々と他の男子を抜いていく。
「すごいすごい!」
テープ係の役目も忘れてはしゃいでいると、あっという間に黒川君がテープに飛び込んで来た。白いテープが私の手から離れ、宙を舞う。
ハイタッチをしようと手を掲げていた私に気付き、すぐに黒川君がこちらに駆け寄って来た。パンと掌を合わせた瞬間、自信満々な表情で口の端を上げた彼に、ドキッと胸が鳴る。
(その顔はずるいよ、黒川君……格好良すぎる)
久しぶりにノックアウトされて、思わずクラリと来た私に、
「どうしたの?文月さん。まさか熱中症?」
庄司さんが心配そうに声を掛けてくれたが、慌てて「違う違う」と手を横に振った。
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