オレ様王子の誘惑

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「えっと、この辺りでいいかな……」  私は体育倉庫に入ると、空いていた壁際に三角コーンを下ろした。 「黒川君もここに置いて」  振り返って声を掛けると、黒川君も近づいてきて、私の置いたコーンの上に、自分の持っていたコーンを重ねる。 「ありがと……」  顔を見上げてお礼を言おうとしたら、突然、黒川君の腕が伸びて来て、私の顔を挟むように壁に両手をついた。彼に体を囲われる形になり、身動きが取れなくなった私は、「えっ」と声を出すと、固まってしまった。  息が絡みそうな距離に、黒川君の顔がある。 「黒川君、急にどうし……」 「朱音、オレの女になれよ」 「!!!?」  真剣な瞳で見つめられ、とんでもないことを言われた私は、こぼれんばかりに目を見開いた。 「な、な、な」  酸欠の金魚のようにぱくぱくと口を開けた後、 「何を突然……!?」 ようやく言葉を発することが出来た私の頬を、 「なあ、いいだろう?」 黒川君は優しく撫で、顎に手を添えた。そのまま、くい、と上に持ちあげ、唇を寄せてこようとする……。 「ちょっ、ちょっと待って!!黒川君、ストーップ!!!」  私はぎゅっと目をつぶり、間近に迫った黒川君から顔を背けると、思い切り彼の胸を押し返した。私の全力の抵抗に、黒川君が1、2歩後ろに下がる。彼にとって私の反応は予想外だったのか、ぜーはーと肩で息をする私を見て、意外な顔をしている。 「どこがどうなってそうなるのっ!!黒川君、何考えてるの!?」  今までそんなフラグ1本でもあっただろうか。突然の展開に、気持ちがついて行けない。 「からかってる!?ねえ、私をからかってるんでしょっ!?」  そう叫びながら、「そうか、今日の黒川君はオレ様王子モードだから、こんな態度をとるんだ」と合点がいく。これで相手が何も知らない1年生なら、「黒川先輩、ステキ」となるのかもしれないが、私は黒川君の変貌には慣れている。騙されはしない。 「いくら何でも、冗談が過ぎるよ、黒川君!!」  私は怒り心頭でそう言い捨てると、彼を置いて体育倉庫を飛び出した――。 *
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