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「おはよう。文月さん!今日もいい天気だね」
映画のオーディションを12月の初旬に控え、その役作りの為か、最近の黒川君は、以前、最上先生と付き合っていた頃のような爽やかイケメンモードに入っていた。
「おはよう、黒川君」
昇降口で出会った黒川君に笑顔で挨拶を返すと、白い歯を見せて笑ってくれる。キラキラと周囲で光が舞っているような笑顔に、
(ダメ。爽やかイケメンモード、やっぱり攻撃力が高すぎる)
思わずノックアウトされて、私は下駄箱に倒れ掛かった。
「えっ!?どうかしたの?文月さん」
黒川君が慌てたように手を差し出したが、
「……なんでもない。気にしないで」
私は掌で彼を制した。
「???」
行き場のなくなった手を引っ込め、黒川君が自分の下駄箱を開ける。すると、途端に何かがざあっと落ちてきた。
「…………」
「手紙?」
慌てて腰をかがめ無言で拾い集めた黒川君と一緒に、私も落ちた封書を拾おうとする。
すると、
「朱音、黒川君、おはよう」
背後から香澄に声を掛けられた。封書を拾っている黒川君に気づき、
「あらら、これはまたたくさんのラブレターだわね」
と呆れたような声を上げる。
「ラブレター?」
もしかするとそうなのではないかと思ったが、あらためて言葉にされるとドキッとする。
「最近の黒川君、モテ期再来よね」
「清里さん」
黒川君が焦ったような声を出し、私の方を振り向いた。
「全部断るから。大丈夫」
強い口調で断言され、
「うん。別に心配はしてない」
笑顔で頷く。
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