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昼休みになり、いつもの3人でお弁当を食べていると、教室の後ろの方から、男子たちの雑談の声が聞こえてきた。
今日の黒川君は中庭ではなく、教室で矢場君たちと一緒にご飯を食べている。爽やかイケメンモードに入ってからは、毎日そうだった。
「沢城耀香の映画、見た?」
「いや~、それが俺、まだなんだよね」
青山君と矢場君が、情報誌をめくりながら話している。
「レビュー読む?ここに載ってる」
青山君が差し出した雑誌を、矢場君は、
「後で読むわ」
と一旦断った。そして、サンドイッチを齧っている黒川君を振り返ると、
「そういえば、黒川さぁ、耀香ちゃんとの合コンはどうなったんだよ?」
と尋ねた。
「えっ?合コン?」
黒川君は顔を上げると目を瞬いた。そんな約束はしただろうかと考えている様子の彼に、苛立ったように、
「10月頃だっけ?設定してくれるって言ってたじゃないかよ」
矢場君は言い募る。
あれは黒川君がオレ様王子モードだった時の話だ。彼が安請け合いをしていたことを私は思い出した。
「ああ、そう言えば……」
黒川君もようやく思い出したらしい。そして、申し訳なさそうな表情を浮かべると、
「悪い、矢場。俺、そんなに彼女と親しくないんだ」
と言った。
「なんだよ、それ」
矢場君は不満そうに唇を尖らせた。険悪になった空気を和らげるように、
「まあまあ、矢場、落ち着けって。黒川もいろいろ事情があるんだし、無理なら仕方ないだろ」
青山君が間に入って宥めてくれる。
「それに、ほら、もしコネがあったとしても、耀香ちゃんが来てくれるわけないじゃん。俺らただの高校生だぜ?」
「それもそうか」
矢場君はすぐに気が静まったのか、
「一瞬でも夢見た俺がバカだったわ」
と、あははと笑い声をあげた。
どうやら、事は収まったらしい。
(良かった……)
私はその時、単純に、ほっと胸を撫で下ろしていたのだが――。
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