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翌日の昼休み、黒川君がいつも通り、
「矢場、昼飯食おうぜ」
矢場君に声を掛けると、彼はちらりと黒川君を見上げた後、ふっと視線を反らした。そのまま席を立つと、
「青山、今日は屋上で食おうぜ」
と青山君を誘い、黒川君を置いたまま教室を出て行ってしまう。
「……?」
黒川君は不思議そうな顔をしたが、気を取り直したように私のところへやって来ると、
「文月さん、俺も仲間に入れてよ」
と言った。
「えっ?」
男子ひとりで女子4人の中に入るつもりなのだろうか。
私が困惑していると、お弁当を持ってやって来た香澄が、
「別にいいんじゃない?」
と言いながら5人分の椅子を寄せた。すぐに隅田さんと田辺さんもやって来て、
「なんだよ、黒川。お前、女子会の邪魔するのかよ」
「私は別にいいけど~。イケメン見ながら食べるお昼もオツだし」
呆れたような隅田さんに対し、田辺さんは優雅なことを言っている。
「ありがとう」
黒川君はにっこりと笑うと、私の隣に腰を下ろした。
各自お昼ご飯を広げながら、会話に花を咲かせる。
昨日のテレビの内容や小テストの結果など、他愛ない話をした後に、田辺さんがおもむろに、
「それで、黒川君と文月さんはどこまでいってるの~?」
と聞いて来た。
「ぶほっ」
思わずむせた私に、
「汚いなぁ、文月」
隅田さんが文句を言いながらもティッシュを貸してくれる。
「ありがと」
赤くなりつつもそれで口元を拭いていると、黒川君はそんな私を横目で見た後、
「ご想像にお任せするよ」
と嘯いた。
その言葉を聞いて、隅田さんが口笛を吹く。
「ちょっ、ちょっと待って黒川君!何、適当なこと言ってるの!?」
私は慌てて黒川君の腕を掴んだが、黒川君は笑ったままどこ吹く風だ。
「真実は藪の中……かしらね」
香澄が手を口元に当て、思わせぶりに笑う。
「仲良きことは美しきかな、だね~」
田辺さんが私の脇を肘で突いた。
「もう、違うんだってば~!」
――そして、その日以降、黒川君が他の男子と昼休みに一緒にいることはなくなり、毎日のように私たちの輪の中に入ってくるようになったのだった。
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