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中庭に着くと、黒川君はいつものベンチにひとりで座っていた。
足元にじゃれ付いている猫にも目をくれず、ぼんやりと宙を眺めている。
見た目はイケメンモードのままだが、雰囲気が素の時の黒川君のようで、
「黒川君」
私は近づいて行くと、不安な気持ちでそっと彼に声を掛けた。
「あ、文月さん。来ちゃったの?」
黒川君は振り向くと、私に爽やかな笑顔を向ける。
「みんなは良かったの?」
「うん、大丈夫」
頷くと、「そう」と言って、ベンチの隣を空けてくれた。
「黒川君……どうかした?」
慎重に言葉を選び、尋ねると、黒川君は一瞬目を見開き、私の顔を見つめた。その瞳が不安そうに揺らぎ、すぐに伏せられる。
「なんでもないよ」
強がった台詞に、
「なんでもないようには見えないよ」
私は即座に否定で返した。
「悩み事があるなら、私に言ってよ」
「彼女なんだし」とつぶやくと、黒川君は目を瞬いた。
「そうだね」
少し表情を和らげ、私の頬に軽く触れる。そしてその手を離すと、
「クラスの裏掲示板……って、文月さんは知ってる?」
と問いかけた。
「裏掲示板?」
そういえば、以前田辺さんがそんな話をしていた覚えがある。けれど、実際には見たことがなかったので、
「ある、とは聞いているけど」
と答えると、
「そこに、今、俺の悪口、すっげー書かれてるんだよね」
「えっ!!?」
私は驚愕で目を見開いた。
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