166人が本棚に入れています
本棚に追加
「悪口!?なんで!?」
「俺が色々と、みんなの気に障るようなことしちゃったからかなあ」
「そんな……おかしいよ!」
黒川君が、みんなの気に障るようなことをしていた覚えはない。絶対に濡れ衣だと思い、憤慨する。
怒っている私を見て、黒川君は少し嬉しそうに微笑んだ。
「文月さんが怒ってくれるだけで、憂鬱な気持ちが吹き飛ぶ」
「何をのんきなこと言ってるの……!」
今そんな素敵な顔をされても、格好いいだなんて思う余裕はない。
「一体、どんなことを書かれているの?」
きっと嘘八百だ。そうに違いない。
すると黒川君は、
「まあ、色々と。別に、何を書かれていても自業自得だからいいんだけど……『売れてない三文役者』っていう書き込みは、ちょっときたかな」
と辛そうに苦笑いをする。
「なに……それ!?」
私の体内に、ふつふつとした怒りが沸き起こった。その人の胸ぐらをつかんで、「一度、黒川君の舞台を見てみろ」と言ってやりたい。
膝の上で拳を握り、怒りで震えていると、黒川君は静かにその手に自分の手を重ね、
「そんなに怒らなくていいよ。文月さんには関係のないことだから」
と言った。
「関係ないって……」
そんなことあるわけがない。私がそう言おうとした時、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
「あ、予鈴が鳴ったね。教室へ帰ろう」
私の手を放し、ベンチから立ち上がった黒川君が、渡り廊下へ向かって歩き出す。怒りと悲しみでないまぜになった気持ちを抱えながら、私はその後を追った。
――そして翌日から、黒川君はパタリと登校しなくなった。
ぽっかりと空いた席を見て、私は溜息をついた。
彼が登校をしなくなったのは、仕事の為だと思いたい。けれどもし、裏掲示板のせいだとしたら……。
(大丈夫なのかな?黒川君……)
12月はもうすぐそこだ。
私の不安な気持ちを写すように、冬の曇った空が、窓の外に広がっていた。
*
最初のコメントを投稿しよう!