裏切りのフォルトゥーナ

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「悪口!?なんで!?」 「俺が色々と、みんなの気に障るようなことしちゃったからかなあ」 「そんな……おかしいよ!」  黒川君が、みんなの気に障るようなことをしていた覚えはない。絶対に濡れ衣だと思い、憤慨する。   怒っている私を見て、黒川君は少し嬉しそうに微笑んだ。 「文月さんが怒ってくれるだけで、憂鬱な気持ちが吹き飛ぶ」 「何をのんきなこと言ってるの……!」  今そんな素敵な顔をされても、格好いいだなんて思う余裕はない。 「一体、どんなことを書かれているの?」  きっと嘘八百だ。そうに違いない。  すると黒川君は、 「まあ、色々と。別に、何を書かれていても自業自得だからいいんだけど……『売れてない三文役者』っていう書き込みは、ちょっときたかな」 と辛そうに苦笑いをする。 「なに……それ!?」  私の体内に、ふつふつとした怒りが沸き起こった。その人の胸ぐらをつかんで、「一度、黒川君の舞台を見てみろ」と言ってやりたい。  膝の上で拳を握り、怒りで震えていると、黒川君は静かにその手に自分の手を重ね、 「そんなに怒らなくていいよ。文月さんには関係のないことだから」 と言った。 「関係ないって……」  そんなことあるわけがない。私がそう言おうとした時、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。 「あ、予鈴が鳴ったね。教室へ帰ろう」  私の手を放し、ベンチから立ち上がった黒川君が、渡り廊下へ向かって歩き出す。怒りと悲しみでないまぜになった気持ちを抱えながら、私はその後を追った。  ――そして翌日から、黒川君はパタリと登校しなくなった。  ぽっかりと空いた席を見て、私は溜息をついた。  彼が登校をしなくなったのは、仕事の為だと思いたい。けれどもし、裏掲示板のせいだとしたら……。 (大丈夫なのかな?黒川君……)  12月はもうすぐそこだ。  私の不安な気持ちを写すように、冬の曇った空が、窓の外に広がっていた。 *
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