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「…………」
私は先ほどから、父親に借りたノートパソコンの前で、難しい顔をして座っている。
黒川君が学校に来なくなってから、もう1週間が経とうとしている。明日からはついに12月へ突入だ。
「やっぱり、見よう」
長い間逡巡した後、そう決心してノートパソコンの電源を入れた。起動音が鳴り、しばらくして、パソコンが立ち上がる。
インターネットに接続すると、私は田辺さんからさりげなく聞き出したアドレスを入力した。すぐに画面が切り替わり、目的のホームページが映し出される。
「2年1組裏掲示板……」
ごくりと息を飲みトップページをクリックすると、トピック一覧が表示され、目で追うとすぐに黒川君のことをさしていると思われるワードが見つかった。中に入り、参加者の会話を確認して、
「何、これ……」
私は呆然として思わず声を漏らした。
「ひどい……!」
「コネもない、人気もない、売れてない三文役者」「多重人格、マジきもい」「彼女盗られた。死ね」「女とばかりつるんでる」……そんな言葉が踊っている。
それらの中に、「ブスと付き合ってる」という書き込みを見つけ、
「私のことも書かれてる……」
私は背中に冷や水を浴びせられたようなショックを受けた。黒川君があえて私に「関係ない」と言ったのは、この言葉を見せないようにするためだったのかもしれない。
以前、黒川君が「クラスの愛されキャラ」だと思ったことを心底後悔した。彼は愛されてるんじゃない、ただ面白がられて、馬鹿にされているだけだ。
ここに書き込んでいるのは、クラスの全員ではないかもしれない。けれど一定層、黒川君の敵がいるということを知り、私は肩を震わせた。
「ひどいよ……」
これ以上見たらダメだ。どす黒い気持ちが溢れそうになり、私はパソコンを切った。
(黒川君、今何を思っているの……?)
傍らのスマホを取り上げ、メッセージアプリを立ち上げる。どう言葉を掛けようかと思い悩み、結局「最近、学校をお休みしているけど、元気?」という当たり障りのない文言を作って、黒川君に送信した。そのまましばらくの間、画面を見つめていたが、
「既読にならない……」
私はふぅっと吐息した。
(幸運の女神フォルトゥーナ、どうか黒川君を裏切らないで)
私はぎゅっとスマホを握り締め、目を閉じた。
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