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40階建てのタワーマンションに着くと、私は上がった息が整うのも待たずに、エントランスへと向かった。記憶にある黒川君の部屋番号を押す。
ポーンという音の後、
「あっ、朱音ちゃん!」
インターホンの向こうから、栞さんの声が聞こえてきた。
「あのっ、黒川君はいますか!?」
ここまで走ってきたせいで汗だくになり、はぁはぁ息をしている私の様子が見えているのだろう。栞さんは一瞬声を詰まらせた後、
「……すぐに開けるわね」
と言って、オートロックを外してくれた。
エレベーターが上昇するのさえもどかしく感じる程、急いた気持ちで文字盤を見上げる。20階の表示が点灯し、扉が開いた途端、私はマンションの廊下を駆けた。
黒川君の家の前に着くと、チャイムを押すよりも早く、栞さんが扉を開けた。
「ああ、朱音ちゃん。来てくれたのね」
栞さんはほっとしたように私の手を取ると、
「主馬君が、主馬君がね……」
と涙声を出した。
「栞さん、お邪魔します!」
私は蹴り上げるように靴を脱ぐと、まっすぐに黒川君の部屋に向かう。
閉ざされた扉の前で立ち止まり、一度息を吸うと、コンコンとノックをした。
「黒川君。私だよ」
声を掛けてみたが、応えはない。
私はドアノブに手を掛けると、そっと引いた。
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