フォルトゥーナの前髪

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「でも、本当に良かったね。これで、お父さんと同じ役を演じられるんだね!」  指を組んで彼の顔を見たら、黒川君は私の方を向いて、眩しそうに目を細めた。 「うん。文月さんのおかげだよ」 「え?私、何もしてないよ。……あ、そんなことないか。心の中でずっと応援してた」  途中で言い換えると、 「心の中だけじゃないよ。全身全霊で応援してくれてた」 黒川君は更にスケールアップした言葉に変えてくれる。 「全身全霊って……さすがにオーバーだよ」  苦笑すると、そんな私を見て、黒川君は首を振る。 「君が『絶対俺の側から離れない』って言ってくれた言葉は、全身全霊の言葉だったんじゃないの?」  流し目を送られ、思わずドキッとする。 「相変わらず、自信満々だね」  赤くなってそっぽを向くと、「こっちを向いて」と顎をつままれた。いつかの渡り廊下の時のように、くいっと振り向かされる。 「……キスしたい」  そっと囁かれ、体温が上がる。けれど、 「だ、ダメっ」 私は黒川君の手を払いのけると、少し体を離した。 「TPOってものがあるでしょ。学校じゃダメ」 「学校じゃなきゃいいの?」  悪戯っぽい目で顔を覗き込まれ、 「~~~っ」 私は更に真っ赤になった。 「じゃあ放課後、家に来てよ。母さんも会いたがっているから」 「栞さんも?行く!」  勢いよく頷くと、黒川君は苦笑いを浮かべた。 「まるで、俺より母さんに会いたいみたいだ」 (そんなことないよ)  私は心の中で首を振る。これは、自信満々な彼に、自分の気持ちを悟られないための照れ隠し。  本当はいつだって一緒にいたいし、触れていたい。  黒川君の中にいたたくさんの黒川君は、みんなひとつになって、彼になった。  けれど、これからも彼は、いろんな顔を見せてくれるはずだ。時には舞台で、銀幕で、テレビの中で。  私は一番近くでそれを見ていたい。  全身全霊の言葉で、私は誓う。 「私は絶対に黒川君の側から離れない」 *
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