青の小夜曲

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青の小夜曲

 6月になり、梅雨に入った。ここ連日、雨が降り続いている。  私は香澄と一緒に音楽室に向かいながら、ガラス窓を滴り落ちていく雨を眺め、鬱陶しい季節に入ったことを憂いていた。  音楽の教科書を抱き隣を歩く香澄が、前を歩く黒川君を見て、 「黒川君、ここしばらく、イケメンモードが続いているわね」 と私に耳打ちをした。  クラスメイトの矢場君と楽しそうに会話をしている黒川君は、鬱陶しい梅雨空も払拭してしまいそうな、明るい笑い声をあげている。  最近の黒川君は爽やかイケメンモードらしく、今までの中で一番、普通の高校生らしさがある。  一時は黒川君のことを「最低野郎」などと思っていた私だが、爽やかイケメンモードの彼から、毎朝白い歯を見せて、 「おはよう!文月さん」 と挨拶をされると、そんな気持ちはどこへやら、 (今日も格好いいなあ、黒川君) とうっとりしてしまう自分がいて、我ながら現金なことこの上ない。 「なあなあ、黒川。昨日の『VS.100人』見た?」 「見た見た!」 「あとひとりってところで、挑戦者が負けてさぁ!惜しかったよな」 「あのクイズ番組、ドキドキするよな」  ごくごく普通の男子高校生がするような日常会話を繰り広げている黒川君を見て、 「普通っぽい黒川君を見ていると、不思議な気持ちになる」 私は思わずそうつぶやいた。  騎士だったり、チャラ男だったり、忍者だったり、色物モードの時の方が多すぎて、彼の場合、普通であればあるほど、妙に感じてしまう。 「普通が不思議って、面白いわよね」  私のつぶやきを耳に留めた香澄が、ふふっと笑った。  香澄の言葉を聞いて、私はふと、そもそも「普通」とは何なのだろうと考えた。色物モードな時の黒川君も、地味系男子の時の黒川君も、黒川君には変わりない。 (うーん……?)
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