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冬の足音が近づく時期だ。僕は、転勤で東京から冬が厳しい、D県の地方都市に引っ越すことになった。
僕の会社では転勤辞令は二週間前に発令される。東京本社から地方都市支社への転勤は、慣習で3年が目安だ。東京本社には、役職が一つ上がって戻れる。
辞令発令から、転勤までの2週間は目が回るほど慌ただしかった。
小学校一年生になる、娘の紗良も転校が大変だ。
妻の碧も僕もD県には、一度も足を踏み入れたことがない。D県支社では、会社が賃貸契約しているアパートが社宅になっている。家族三人でそこに住む。会社の休憩時間中に、僕と入れ替わりになるD県支社の社員に電話をした。会社からなので、僕の電話代は節約できる。
「治安は良いですか?」
「良いですよ」
「地元の学校はトラブルとかないですか?」
「社宅から歩いてすぐのところに町立小学校があって、私の娘も通ってますが、大きなトラブルは聞いたことないですね」
「小さなトラブルはあるんですか?」
「聞いたことないですね」
僕一人が事前にD県へ行く。社宅アパート近くを歩いて調べた。公共交通機関や、スーパーの位置、そして、小学校も訪ねる。
校庭で遊ぶ子たちは笑顔だ。先生とは前もって約束してあり、職員室に立ち寄った。1学年1クラスの編成になっているそうだ。優しくてしっかりした先生だ。
その日のうちに、東京へ舞い戻る。碧は、コンビニの正社員を退職したそうだ。申し訳ない。
会社で送別会をしてくれるが、その前にお世話になった後輩たちへ、連日、昼食をおごった。会社近くのリーズナブルな牛丼店で、好きなものを遠慮なく注文してもらった。
紗良のお別れ会は、自宅でお友達を呼んで行った。お友達の保護者の方々に、嫁さんと紗良と三人一緒に、あいさつまわりをした。三年後に戻って来るのを、しっかり伝えておきたかった。
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