悲鳴

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叫び声がした。 その声は男の様でも女の様でもあり、子供の様でも大人の様でもあった。 私は雑踏のなか、周りを見回した。 誰も気にしてはいない。 休日の街は賑やかで大変な人出だ。みんな誰もが笑いながら、楽しそうに行き交っている。叫んでいるものなどいはしない。 自分の聞き間違いか。 再び歩を進めようとすると、また叫び声が聞こえた。今度はもっとハッキリと、「助けて」と。 私は動揺して、あたりを再び見回した。 どこから声がしたのかわからなかった。雑踏はその騒音でひとりひとりの声を呑み込んでいく。叫び声はこの人混みの中心からしているようでもあり、もっと遠くからにも感じられた。そもそも中心などあるのか、果てなどあるのか。この人の群れに。 先日あった通り魔事件や大きな交通事故。ニュースの画面を思い出す。白墨のあと。大破した車やガードレール。犯人、犯人の顔。歳、名前。 冷たい汗が背中を伝う。耳鳴りがする。 前から来る女が携帯電話で大きな声で話している。その後ろにいる男はつまらなそうにメガネを直す。その横の高校生たちはなにかを指差して大声で笑う。 後ろを向くと、老人がいる。咳をする。私を見る。 なぜ私を見る。なぜ笑う。なぜ近づいてくるんだ。 誰だ。お前は、お前たちは誰だ。 他人。そうここには他人しかいない。彼らが普段何をして何を考えていて誰と住んでいてどんなふうに育ってきたか、私は知らない。 私は、知らない。知らない。知らない……。 私は、叫んでいた。 それは男でも女でも子供でも大人でも無い、獣のような声だった。
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