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プロローグ
彼女は彼のことがすき。
僕は彼のことがすきな彼女のことがすき。
それだけ。ただ、それだけ。
ーーーーーーーー
「あっついねー!夏だね!夏!もう夏だよ!」
僕の少し前を歩いていた彼女が、急に振り返って言った。
「まだだよ。梅雨明けもまだしてないって」
「えー!そうなの!?こんなに暑いのに......」
振り返ったままの状態で、後ろ向きで歩きながら彼女は話し続ける。
「ねぇねぇ!夏休み何する!?何して遊ぶ!?」
「気が早いって......それより危ないからちゃんと前......」
「でも、ほんと大学生って最高だよね!夏休みは長いし、宿題はないし!
あーほんと今から夏休みが楽しみ!」
僕の言葉を遮って彼女は笑った。
彼女に照りつける太陽が眩しかった。
カンカンカンカンカン
ふいに、けたたましい音が鳴り響く。
「あ」
彼女が急に走り出した。
階段を駆け上る。高架下には線路。
カンカンカンカンカン
彼女は高架の真ん中、線路のちょうど真上で立ち止まっている。
ゴオオオオオオオオオオオオ
電車が彼女の真下を通過した。
「間に合った」
そう言って彼女は笑った。
「毎日ほんと好きだよね。」
「え?別に好きじゃないよ?」
「え、そうなの?」
「あれ?好きなのかな?私。電車。なんでだろ」
不思議な沈黙が数秒。
そして彼女は何かに気づいた。そして、悲しそうに、でも嬉しそうに、笑った。
「あー......そっか。好きだった。電車。うん。そっか。うつるもんだね、好きな物って」
あー......間違えた。
聞かなきゃよかった。聞きたくなかった。
でも。
「そっか。彼が、好きだったんだ」
僕は優しく、出来る限り優しく、そう返した。
「うん」
彼女は電車が通り過ぎた線路を見つめたままそう頷いた。
梅雨であることを忘れてしまった太陽が先ほどより強く、彼女を照りつけている。
線路を見つめる彼女の横顔が眩しすぎて、僕は涙が出そうになった。
ーーーーーーーー
彼女は彼のことがすき。
僕は彼のことがすきな彼女のことがすき。
それだけ。
そう。
これは、ただそれだけの、不毛な恋の物語。
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