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コオロギの牙
『コオロギおじさん』と、呼ばれている老人がいる。
街外れに、彼の家があるという。
小学校の友達も、よく見学に行くらしい。
「世界中のコオロギを集めているぞ」
と、噂になっていた。
面白そうなので訪ねてみた。友達はもう見たので、自分一人だ。
木造の一軒家で、窓もドアも開けっ放し。とても古く、庭も草ぼうぼうだ。
「失礼しま~す」
大きな声を出して、中に入った。
部屋の中は、ヒンヤリとして涼しい。
ザーッ、と水を流す音がした。
(トイレ中だ)
スーッと中に入り見渡すと、確かにコオロギが、小さな箱に分けられて、数多く飼われている。
いろいろな泣き声が聞こえてくる。
(スゲーよ!)
1つだけ、鉄製のケースで真新しい。
籠の入口に鍵がかかっていた。
(なんでだろう?)
1匹、中にいた。
そいつは、必死に目の前の餌を食べようとして口にはさむが、こぼしている。
右手をケガしているのか、ガタガタ前進しては転んだ。
僕の目を見つめてきた。
(ケガして治療中なんだ。かわいそう、食べさせてあげたい!)
と思った。
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