1人が本棚に入れています
本棚に追加
***
「あ。」
会議室のセッティングを頼まれて、手の空いている同じ部署の人たちで、椅子や机を並べている最中、同じ椅子に手を伸ばしてしまって、話したこともない2年先輩の男性社員と手が触れてしまった。
すぐに手を引っ込める。
「……具合悪かったりする?」
思いがけなく、心配そうな顔をされた。
「いえ……。私、異常に手だけが冷たくて……。
体質なんです。」
気を遣ってもらって申し訳なくて、正直に白状する。
「そうなんだ。それならよかった。」
そして、ふわっと笑って続けた。
「ハンバーグ、うまく作れそうな手だよね。」
「は?」
「ハンバーグ。」
「……ハンバーグ……ですか?」
「ほら、ハンバーグをこねる時ってさ、熱が伝わると、脂が溶け出しちゃって、おいしくなくなるっていうじゃん。
人によっては、氷水にわざわざ手を浸してから捏ねるとか聞くし。
だから、うまく作れそうかなぁって…。そのひんやり具合。」
そんなこと、初めて言われた。
どう反応したらいいか、ちょっと困っていると、少し慌てたみたいに謝られた。
「あ、ごめん。唐突過ぎだった。
俺、ハンバーグが好物なんだけど、絶対に作れないんだ。
ほら。」
彼は手のひらを上にして私に差し出した。
戸惑いながら、そっと手を乗せてみると、燃えるように熱い。
「俺は常に熱を帯びてるんだよね…。
手に限らず。
体温も高め。」
それが健斗との出会い。
最初のコメントを投稿しよう!