雪女のハンバーグ

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*** 「あ。」 会議室のセッティングを頼まれて、手の空いている同じ部署の人たちで、椅子や机を並べている最中、同じ椅子に手を伸ばしてしまって、話したこともない2年先輩の男性社員と手が触れてしまった。 すぐに手を引っ込める。 「……具合悪かったりする?」 思いがけなく、心配そうな顔をされた。 「いえ……。私、異常に手だけが冷たくて……。 体質なんです。」 気を遣ってもらって申し訳なくて、正直に白状する。 「そうなんだ。それならよかった。」 そして、ふわっと笑って続けた。 「ハンバーグ、うまく作れそうな手だよね。」 「は?」 「ハンバーグ。」 「……ハンバーグ……ですか?」 「ほら、ハンバーグをこねる時ってさ、熱が伝わると、脂が溶け出しちゃって、おいしくなくなるっていうじゃん。 人によっては、氷水にわざわざ手を浸してから捏ねるとか聞くし。 だから、うまく作れそうかなぁって…。そのひんやり具合。」 そんなこと、初めて言われた。 どう反応したらいいか、ちょっと困っていると、少し慌てたみたいに謝られた。 「あ、ごめん。唐突過ぎだった。 俺、ハンバーグが好物なんだけど、絶対に作れないんだ。 ほら。」 彼は手のひらを上にして私に差し出した。 戸惑いながら、そっと手を乗せてみると、燃えるように熱い。 「俺は常に熱を帯びてるんだよね…。 手に限らず。 体温も高め。」 それが健斗との出会い。
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