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乾杯してワインを一口飲むなり、健斗はハンバーグに手を伸ばす。
また私がクスクス笑っていると、
「だって焼きたてだし、ゆめのハンバーグだし。」
と言って、健斗はハンバーグを口に入れる。
「やっぱ、世界一。」
と健斗は目を細めた。
「私のも半分あげるよ。
誕生日スペシャル。」
私は自分の分を半分切ると、健斗の皿に載せた。
「えぇ? ちゃんと食えよ。」
「健斗が食べてるの見てるだけで、おなかいっぱい。」
正直、ワインとチーズとフランスパンがあれば、それでいい気分だったし。
「まったく……。
まぁ、でも、ありがたく頂戴します。」
健斗が食べる姿をワイングラス片手に、満たされた気分で眺めた。
「そんなにじっと見んなよ。」
「えぇ? いいじゃない。
雪女ですけど、命は奪いませんから。」
健斗はフォークとナイフを皿に置いて、ちょっと真面目な…でも優しい表情を見せて、私を見つめる。
「───”ゆめ”の”ゆ”は───。」
「”雪女”の”ゆ”」
すかさずセリフを奪ってやった。
「違うよ。
俺にとっては……。
”雪の女王様”の”ゆ”ってとこかな。」
女王様とは、随分位が上がったなぁ……。
「じゃあ、”め”は?」
聞いてみたい気分になって、軽い気持ちで返すと、
「”めちゃくちゃ愛し倒します”の”め”」
と速攻で打ち返された。
「いやいや、ちょっと気障すぎじゃないの?」
照れくさくて、目を逸らしながらそう言うと、向かいから長い腕が伸びてきて、私の手に健斗の手が重なった。
「気障ついでに。
命は奪われないまでも、この手に胃袋を掴まれ、その笑顔に心を奪われてしまいました。
もう離れられません。
責任とって、結婚してください。」
フリーズ。雪女だけに。
「返事が誕生日プレゼントってことでどう?」
健斗の熱で溶かされそうなんですけど?
でも、健斗の期待に満ちた目を見たら、頷くしか選択肢なんかないじゃないか。
「多分、一生のうちで一番幸せな誕生日。」
そう言って、健斗は笑った。
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