雪女のハンバーグ

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*** 私は雪女だ。 小さい頃から手だけが異常に冷たかった。 小学生の時、悪ふざけが大好きな男子に”雪女”とあだ名をつけられて以来、ずっと、陰でも日向でも、そう呼ばれることが多かった。 小学校低学年の頃は、泣いたり怒ったりして、”雪女”と呼ぶのをやめさせようと抵抗したけれど、騒げば騒ぐほど面白がられると悟ってからは、取り合わないことにした。 「ゆめの”ゆ”は、”雪女”のゆー。」 私の名前は「ゆめ」だから、そんなこと言って囃し立てる男子の声を聞きながら、 ───じゃあ、ゆめの”め”は何だって言うんだよ。─── と、心の中で毒づいたりしていた。 愛想がいいタイプじゃないし、バカなことを言ってくる男子に冷たい一瞥をくれてやる態度がいつのまにか身についた。 そんなに人づきあいがうまくもない。 だから、「ゆめちゃんってクールだよねー。」と言われるようにもなった。 でも陰では、「雪女だからね。」と言われていることも知っていた。 この氷のような手を何とかしたいと思うことは勿論あって、朝イチで白湯を飲むといいとか、運動量を増やすといいとか、このツボが冷えに効くとか、聞いたことは全部試してみた。 でもどうしても、この手だけが冷たいという現象は治らない。 体質としか言いようがない。 こんな私でも、恋の一つや二つはするし、彼氏がいたことだってある。 でも、ふとした時に手が彼に触れてビクッとされると、ちょっと傷つく。 何でも素直に口にするタイプの彼氏には、 「お前の手、冷たすぎるだろ。急に触んな。」 と言われたこともある。 夏は、重宝がられることもあるけど……。 肌を重ねる時だって、びっくりさせてしまうから、私から相手に触れられない。 そのせいというわけじゃないけれど、就職する頃には彼氏はいない状況で、好きな人もいない、完全フリーの雪女だった。
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