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拓馬にとっては最初の旅でアルゼンチンに行って、御守りをゲットして、俺に再会して、その全部が運命的な繋がりを持っているらしい。が、正直なところ呑気過ぎて気が気じゃない。
もっと治安のいい所からスタートするべきじゃなかったのか、命があったから良かったようなものの無鉄砲じゃないのかと文句を言うと、大学で取った第二外国語がスペイン語だったんじゃ! と当たり前みたいな顔で返された。
「ふ」
何だかもう、笑うしかなかった。
会えなかった11年分の拓馬。俺の知らない拓馬の事を、怖いけど全部受け入れる。もう肚を括る。俺はまだまだいっぱい拓馬の事を知りたい。
「笑い皺」
「営業マンは作り笑い必須なんじゃ。新人研修で叩き込まれるんじゃ」
「ほじゃあこりゃ作り笑い皺かね……!」
「今は本気で笑うちょる」
「ようけ笑いんさい」
俺達は、さっきよりも指を絡めて歩いた。『恋人繋ぎ』をしたのは生まれて初めてだ。拓馬は俺に初めての経験をたくさんくれる。
「結婚と離婚の事は……聞いてもいい?」
「うん!」
「スマホの写真、拓馬の子ども……?」
俺の肩に擦り寄ると、拓馬は上目遣いにこっちを見上げた。
拓馬の吐く白い息の向こう、赤くなった鼻の頭が……泣いているようで切ない。
「俺ねえ。あの子取られちゃったんよー」
「やっぱり……男親じゃ親権取れんかったんか」
「それもあるけどそもそも俺の子じゃなかったけえ」
「は」
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