第一章〜あやかしと私〜

8/9
前へ
/161ページ
次へ
 お腹も満たされると、ふといつもの行事を思い出す。父がいつも新しいビジネスを始める時には忙しくなりあまり家にいられないので、いい子で待っているようにとアイスを買ってもらっていた。  今では成長したので父もアイスを買ってくれることもなくなり、一人で待っているご褒美として自分自身にアイスを買うようになった。小さい頃は今回のように所在不明の所に出かけて行ったり、夜帰ってこないことはなかったが、中学生にもなるとマグロ漁船で一発当てるぞと遠くの海原に身を投じたり、新しい鉱物の採掘をしに地下に潜り帰ってこなかったりとあげればキリがないほどのビジネスに手を出し何も得られず身一つで帰ってくる。  そこでめげないのがいいところなのか悪いところなのか、父にはほとほと手を焼かされるが、唯一の身内なのだから仕方がない。  私もぐれずに本当によくまっすぐ育ったわよね。  自分をほめつつ、気合をいれて立ち上がる。そして、妖怪アパートの扉を開け、鍵を締める。  さて、私の唯一の贅沢を買いに行くとしますか。  夜空には無数の星が広がり、空気もとても澄んでいる。私はこの町の空気が好きだ。都会というにはほど遠く、町は静かでお店も程よく立ち並び不便はない。少し自転車を走らせると海も山もあり、川もある。自然と一体になっているためにここはあやかしが出やすいのだろう。今も道の端には何匹ものあやかしがこそこそっと身を潜めている。コンビニまでのほんの少しの道を気分よく歩いていると、見知った顔が目に入る。  あの特徴的な狐耳・・・。  生徒会長だ。生徒会長は周囲を気にしながら音もなくすーっと道を曲がっていく。見る限り、とても周囲を気にしている。あやかしとはあまり関わってはいけないと母から何度も言われてきたのだが、あの生徒会長が人目を気にしてこそこそと歩いているのは何か面白いことがあるに違いないと思った。しかし話しかけようにもスピードが速すぎて追い付かない。とても温和で優しい姿は、もしかしたら仮の姿かもしれないが、いつも優しく接してくれている生徒会長の本当の姿が見たくて好奇心に勝てず、後をこっそりとついていくことにした。  先ほどの角を曲がるとその先には神社がある。とても長い階段があり、その横にはたくさんの木々が生い茂っており、夏はとても涼しい。その長い階段を上ると山の上に古くも立派なお堂が建っているのだ。私は小さい頃よくここに来ては遊んでいた。ここは、霊力が溜まりやすいのかたくさんのあやかしに会えた。昔は母も一緒に来ていたためここにいるあやかしたちとも仲良く遊んでいたのだ。あやかしと遊ぶのが楽しくてあやかしが大好きだった。  ふふふ。でもたまに悪さをするあやかしがいて、そのあやかし、母によく怒られていたっけ。  思わず、思い出し笑いをした。
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

172人が本棚に入れています
本棚に追加