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男は長い間、旅に出ていた。
画家である男は、最も美しいものを創り上げるために、妻子を置いて旅に出た。
諦めていた夢であったが、ある時酒に酔って帰った男は、玄関に倒れながらポロリと妻に溢した。
「僕は世界で一番美しいものを創りたいんだ。その為には世界を見ないといけない。だから僕には生涯創れない」
泥酔した時に泣きながら言ったため、本人は全く覚えていなかったが、その数年後、依頼された絵を届け金を受け取って帰ってきた男に、妻は旅自宅の纏められた鞄と、家族三人半年は暮らせるであろう金をわたした。
「これは、いったいどういうことだい?」
「私はこれでも、画家のあなたに惚れた身です」
「それは、どうも」
「だから、私もあなたの創る、世界で一番美しいものが見てみたい」
「どうしてそれを」
「あなたが酔って泣きながら言ってました」
「それは、なんとも、恥ずかしい」
「ええ。だから探してきてください」
「しかし、君たちを置いてなんて」
「大丈夫ですよ。五年くらい。でも、五年以上帰ってこないのでしたら、他の方に嫁ぎます。未だに私、お声がかかるんですからね」
少し拗ねたような妻に男はつい笑ってしまい、糾弾される前に妻を抱きしめた。
「ああ。君はいつまでも美しいから」
「だから選んだのでしょう?」
「そんなことは……うううむ」
「はっきり違うと言われたかったです」
「すまない」
二人の笑い声に誘われるように、幼い子供が起きてきて、親子はその日、三人で眠りについた。
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