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選んであるく
ぼくはテーブル越しの女性に白い封筒を手渡しながら、心臓が早鐘を打つ感覚を覚えた。
部屋中に漂うコーヒーの香りすらやけに強く感じられる。どうやらぼくは緊張しているのかもしれない。
「……ねえ配達人さん。これ、開けてもいい?」女性が静かにいった。
「…………もちろん。手紙は読まれるためにあるものですからね」
ぼくの回答に女性は微笑むと長封筒の上辺をビリっと破き、そのなかからたった一枚の紙片を取り出した。
ぼくはソファに背中を預けて女性の様子を注意深く伺う。
女性は手紙に視線を落とし、眼球を左から右に一度だけ動かした。そして一瞬の間のあと、ふうと短く息を吐いた。
ぼくにはそれがどういう意味を持つかわからなかった。手紙の内容が信じられないという呆れだろうか。それとも信じて諦めたのだろうか。
ぼくなら前者だろう。そう思った。
だって手紙にはたった一文、こう書いてあるのだから。
――あなたは二十四時間以内に死にます、と。
《事前調査書》によるとこの女性は紫原理乃というらしい。この家のたったひとりの住人で、今年で二十七歳。つまりぼくより三歳年上ということになる。
ちょっと愛想のないつり目とざくざくと切られた栗色のショートカットが特徴で背が高い。健康そうだ。
ぼくにはこの手紙の内容がなにかの間違いのように思えてならなかった。
ただし間違いなんてことは絶対にない。実際にぼくはいままでたくさんの死に際を見てきし、死ぬという事実はどうあがいても変えられない。
リノさんのほうをちらりと見る。なにか考えている様子で沈黙を守っていた。
仕事は終えたことだしいっそのこともう帰ってしまおうか、とも思ったけれどまだそれはできなかった。
確かにいま帰ったところでお給料的には問題ない。最低限の仕事はこなしたわけだしここで帰る配達人がほとんどだろう。
しかしぼくにはどうしても訊かなければならないことがあった。
――ぼくは知りたかったのだ。
ひとは死ぬときになにを思うのだろうか。
なにを悔いなにを誇ってこの世を去っていくのか。
ぼくはこの仕事を始めてからというもの、手紙の受取人にそれを必ず尋ねるようにしていた。
それがぼくを突き動かす最大かつ唯一の理由だった。
「……どうです、リノさん。こんな突拍子もない話、信じられないでしょう?」
「いいや、私は信じるよ」真っ直ぐな目がぼくを見据えた。
「……意外、ですね。なかなか信じてもらえないものなんですが。でもぼく以外のひとは簡単に信じないほうがいい」
「ご忠告ありがとう。さすが配達人さん。ええと名前は……、たしか上野くんだっけ?」
「…………鶯谷ですよ。鶯谷侑」
「そうだったそうだった。鶯谷くんね。ふふ、覚えておくよ」
「……ぜひお願いします」
どうにもやりにくい。リノさんはどこか飄々としていて掴みどころがなかった。ふつうは全く相手にされなかったりヒステリックになって急に暴れ出したりするものなのだけれど。
「……それにしても」リノさんはいう。「神様も存外優しいものね。私にもこんなに手厚くしてくれるなんて」
「優しい?」
「そう。だって急に死ぬひとに対して事前通告してくれるわけでしょ? 優しいじゃない」
「まぁ、老衰の場合なんかには配達されないみたいですけどね。……もっとも自分が死ぬと言われて神様が優しいだなんていうひとは初めてですよ」
「あらそう?」リノさんはとぼけるようにいった。
優しい、といえば死にゆくひとは願いごとをひとつだけ叶えてもらうことができるという権利があったりする。もちろんそれは配達人が叶えられる願いに留まるし、ぼくは面倒だからこの説明をろくにしたことがないのだけれど。そして今回も説明する気はさらさらない。
「――ねえ、リノさんひとつ、訊いていいですか?」
「ん? なに?」
リノさんの澄んだ目はやっぱりこれから死ぬようにはみえない。
「……自分が死ぬと聞いてどうです? リノさんは死ぬ前になにを思っているのでしょうか」
リノさんはきょとんとした。
「……、神様は優しい、ということ以外で?」
「ええ。そうですね、たとえば…………。後悔とか、そういうのはないんですか?」
リノさんは理解したという顔をして、
「ああ、そういうのか。うーん……。そうだね、私は自分の人生に後悔していないよ」
「……ぼくはたくさんの死に際をみてきました。そしてみんな口を揃えていうんですよ。――ああ、後悔の多い人生だった。もっとああしておけばよかった――。ってね。それがふつうです」
「……それは私にも後悔があるはずってこと?」
ぼくは無言で頷いた。
死に際の人間は後悔のことばしか発しない。理由は違えど後悔している事実は同じなのだ。
「それは実際その通りだろうね。……じゃあ訂正するよ。私もまったく後悔がないというわけじゃない」
「……ほら、やっぱり」
「――でもね。私のいう後悔は人生において微々たるものなんだよ。円グラフでいうと『その他』の部分だね。割合が小さすぎて文字が書けなくなっているところ」
リノさんは空中に指先で円を描いて、これくらいだと示した。
「そんなのむりやり自己肯定しているだけでしょう?」
「いや、違うよ。そうじゃない、と明確にいえる理由が私にはある。……それがあれだね」リノさんは窓際のほうにある作業机を指差した。「あれのおかげだ」
作業机の上には何百枚もの紙が積み重なっていた。
「……小説、ですか?」
「ご名答。……さすが事前調査は伊達じゃないね」
「調査書を読んだとき興味を持ちましてね。ぼくはこう見えて読書家なんです。なんでしたっけ。あの短編集……。そのなかの一遍のセリフが好きなんですよ。『規則なんて、破るためにあるのよ』ってヤツ。なかなかクールだと思いません?」
「……私にもそういう読者がいたらもう少し幸せな気持ちで逝けるかもしれないけどね。私の場合は売れてないから」リノさんはつまらなそうにいう。
それも事前調査で知れていた。リノさんは小説で生きていけるほど稼いでいない。
「なんにせよリノさんは小説を書いていたから後悔がないと」
「それは誤解だよ」リノさんは声を大きくした。「小説こそが人間が生み出した最高の文化だとかいうつもりは毛頭ないね」
「? じゃあどういうことですか」
「そうだな……。ただ私はちゃんと人生の選択をした、というだけだよ。つまり私の人生にとって一番大切なのは小説だというわけだね」
ぼくは思わず眉間にしわを寄せた。
「――そんなのキレイゴトだって、そう思っている? まあ、他人から見たらそうかもね。否定はしない。でもね、『貴方の人生において絶対にやりたいことをひとつだけ選びなさい』……仮にこう問われたとして、私の場合それが小説だったんだ。本当だよ。それ以外はなにもかも捨てちゃった」
ぼくは心が見透かされたようでいい気がしなかった。
「……捨てた? なにを?」
リノさんは自嘲気味に笑う。
「……そうね。たとえば、私を愛してくれた夫を」リノさんはコーヒーをゆっくりとすする。
「……失礼かもしれませんが離婚しているんですよね。ええと、たしか二年前に。いや、違いますよ。同情なんて安いものじゃありません。……ただ奇遇だと思いましてね。ぼくも三年前に結婚を約束した彼女とお別れしたんですよ。……まあ、彼女の場合は事故で亡くなったんですけどね」
リノさんはぼくをじっとみてから無言で立ち上がると、作業机の紙束を優しく撫でた。
「ねえ、鶯谷くんは学習性無力感、という言葉は知っている?」
「……いえ。突然なんです?」
「簡単に説明するとね、抵抗できないストレスを長い間受けちゃうと、そうした状況から逃れようという『行動』すらも行わなくなることなの。つまりすべてを諦めてしまうんだよ」
「……それがどうしたんです?」
「――これはどっかのえらい学者がやった実験らしいけど。
電気ショックが流れる部屋に犬を入れて三つのグループに分ける。
一つ目のグループは犬がある行動をとると電気ショックが止まるようになっている。
二つ目のグループは何をしても電流を止めることはできない。
三つ目のグループはそもそも電気ショックを与えられなかった。
この結果、一つ目のグループの犬は電流を止める方法を学習しそれを実行したのに対して、二つ目のグループの犬は最終的に何の抵抗もしないようになってしまったらしいんだよね」
「……ひどい実験ですね」
「――鶯谷くんは優しいね。でも話のキモはここからだ。
さて、今度はその三つのグループの犬を低い壁で区切られた部屋に連れてきた。区切られたうち、一方の床にだけ電気ショックが流れるんだ。つまり犬たちは簡単な壁を飛び越えるだけで電気ショックから逃れられる。
もともと電流を浴びなかったグループと、電気ショックを止めることができたグループはすぐに壁を飛び越えた反対側の床に逃げたそうだよ。
……では何をしても電気ショックを止めることのできないグループはどうだろう?
結果は壁を飛び越えようとしなかった。電気ショックから逃れる方法を探そうともしなかった。
どうしてか?
もう逃げられる環境にいるのに、そこから逃れるという選択肢があることを忘れていたんだ。
動物は学習するんだね。『自分が何をやっても結果が変わらない』って」
「……リノさん、なにが言いたいんですか?」
ぼくが訊くとリノさんはぼくの目を見た。そして眉を困ったようにすると、優しい表情で言った。
「――そうだ。ついでにいいことを教えてあげる。いうつもりはなかったんだけど。つまらない話に付き合ってくれた特別サービス。……実は私もあなたと同じ配達人だったんだ。……この白い封筒のね」
リノさんはぼくが渡した白い封筒の角を懐かしそうに指先でなぞった。
「そんな冗談で……」しかしぼくははっとした。「――まさか、だからこんな話をすぐ信じたんですか? だからこんなに冷静だったんですか?」
だけれどこの仕事のことを知っていたとしても、リノさんが自分の死についてすんなりと受け止めたことについては説明がつかない。
「うーん、五十点」
「……じゃあ残りの半分はなんです?」
「それは……、鶯谷くんが聞きたくないことかもしれない」
「……言ってください。お願いします」
ぼくは知らなくて後悔なんてしたくない。
「……うん、わかったよ。いい? 覚悟して聞いてちょうだい。私が配達人として働いているとき、偶然知ってしまったの。――あなたは死ぬの。そういう運命なんだよ、配達人って。いまは死を運ぶ存在かもしれないけど、実はもうすぐ死を運ばれる側なんだよ」
――ぼくが死ぬ? なにをいってるんだ?
死ぬのはリノさんであってぼくじゃない。
「……そうですね、知っていますよ。そんなこと。……人間たるもの遅かれ早かれ、だれでも死ぬものですよね」
「逃げないで。……そういうことをいっているんじゃないの。わかるでしょ? ……配達人はそういう運命なの」
「…………嘘……ですよ、だって」
「だって、なに? 自分は若いから死なないとでも? ……嘘じゃない。配達人はそもそも数年後に死ぬ人間から選ばれるらしいの。配達人という仕事をとおしてひとの死を観察させることで、それを受け入れさせるためなのかもね」
「…………」
ぼくの三年間。
それはまさにひとの死を見続けてきた三年間だった。
あんなふうに、ぼくが死ぬ?
あれ? そもそもぼくはなんでこの仕事を始めたんだっけ。
――ああ、そうだ。彼女が死んだからだ。
彼女が死んでぼくはひとの死を観察することを選んだ。
……選んだ? ほんとうに?
……いや、ちがう。ぼくは選んだんじゃない。
逃げただけだ。
学習性無力感。リノさんのあの話が頭をよぎる。
ぼくは選ぶのを放棄していた。
壁を飛び越えるのを諦めていた。
死という絶対的なものを目の当たりにして、自分が何をやっても結果が変わらないんだといい聞かせていた。
それでぼくはなにを得たのだろう。
ぼくはこの三年間、なにをしてきたのだろう?
そう思った途端、突然ぼくの全身をひんやりとしたなにかが襲った。
ぼくの肩はぐっと強張り、冷たい汗をかき、背筋はぞくぞくと凍ったようになった。
ぼくの顔はいま真っ青だろう。
寒い。冷たい。こわい。
ぼくは気づいた。ぼくが過ごしてきたどうしようもない三年間に。
でもこれからどうしたらいいのか、そんなのわからない。
壁の飛び越え方なんて、とっくに忘れてしまった。
「――自分の寿命があと少しだなんて聞いてどんな気分かな?」
「……正直びっくりですけど。そんなことはどうでもいいんです。……違うんですよ、リノさん。そうじゃないんです」ぼくはなんとか声を紡ぎだした。冷や汗がとまらない。
「どうでもいい?」
「ぼくは気づいたんですよ。いえ気づいてしまったんだ。……ぼくはこの三年間逃げてきたんです。最愛の彼女を突然失って、それに対してちゃんと向き合おうとしなかった。そしてひとの死に際になにを思うのか知ろうとした。それでわかろうとしていたんです。死んでいった彼女の気持ちを。ぼくは不安だったんです。果たして彼女はぼくと付き合っていて後悔はなかったのか? ぼくといたくだらない毎日を後悔していなかったのか?」
リノさんは黙って聞いている。
「ぼくはばかだった。そんなことをやってもなにも変わらないのに。……でもぼくは未だにわからない。どうしていいのかさっぱりだ」
「それが、鶯谷くんがこの仕事をしていた理由か。……はっきりいうね。――ふん、くだらない。過去は変えられないんだよ。それは小さな子どもにでもわかることだ」
「じゃあどうすれば、」
「鶯谷くんがなにをしたらいいか、なんて私にわかるわけないよ。だって私は鶯谷くんじゃないからね。それでもひとついえることがあるとすれば」リノさんは静かにでも力強い声でいう。「なにかを選ぶ、ということはなにかを捨てる、ということだ。すべてを選ぶことなんてちいさな人間たちにはきっとできない。私の一番やりたいことが小説を書くといういささか滑稽なことだったように、鶯谷くんも自分で選ぶことだよ。なにをするのか、そしてなにをしないのか。それを選ぶんだね。……幸いなことに、鶯谷くんは二十四時間以内に死ぬというわけじゃない。だからゆっくり探せばいい。これからなにをすべきなのかを、さ」
「リノさん……」
リノさんはこれから死ぬ。もう彼女がなにかを選ぶことはない。
ぼくは近いうちに死ぬと言う。けれどすぐに死ぬわけじゃない。
だったらリノさんの言う通り自分の意志で選んでいくしかない。
少なくともひとつだけ、ぼくがわかっていることがある。
――この仕事がぼくのやりたいことではないはずだ。
リノさんはいう。「他人に選択肢を奪われることは多いものだよ。だけど選択するという自分自身の意志はだれにも奪えない。会社に行くときに出すゴミと一緒に自分で捨ててしまうだけなんだ。それを忘れちゃいけない。いつでもだれでもどんなときでも選択はできる」
リノさんの優しい目が、ひんやりしたぼくの身体をあたためていく。
ぼくはこの三年間逃げてきた。
なにも選んでこなかった。
このままじゃきっと、ぼくは死ぬときに後悔するだろう。
そんなのはいやだと、そう思った。
「……はい、ぼくも…………、自分の意志で選んであるいてみようと思います」
ぼくはどうしてか、子どもみたいに泣いていた。
「あらら、泣いてどうする? それが鶯谷くんの一番したいことなの? ……さすが、平城京ってわけね」
「平城京? …………ああ、なくようぐいす、ですか。それをいうなら平安京ですよ」
くだらない。しかも間違えている。
でもそれはぼくの三年間と一緒だった。
それはくだらなくて。
それは間違えていて。
どうしようもない冗談みたいな話だった。
*
「――最期にひとつだけ、お願いを聞いてくれるって規則あったよね」
「……覚えていましたか。ええ、ひとつだけならなんでもどうぞ」
「じゃあ配達人さん、これを届けてくれないかな」リノさんは白い封筒をぼくに手渡した。リノさんに死を告げた、あの白い封筒だ。
「……なんの冗談ですか?」
「いんや冗談でもなんでもない。……ああ、ちがうよ。この中身はちがうものだ。離婚した夫への手紙が入っている。……そんな顔しないでよ。せめてもの償いってやつ? それをあのひとのもとに届けて欲しい。小説とどっちにしようか迷ったけどね。どちらかひとつって話だったし。……ま、私が書くレベルの小説なんて誰にも書けるけど、この手紙は私にしか書けないものってことに気づいちゃたんだな、これが」
リノさんは頭をかきながらはにかんだ。
ぼくが断る理由はなにもない。だって規則だから。
「……わかりました。確かに届けますよ」
「……ありがとう。じゃあ私は寝るよ。すこしだけ寝て起きたら――、死ぬそのときまで小説を書いてやるさ。……あ、コーヒー飲んだらそのままおいておけばいいから」
リノさんは立ち上がるとドアに向かった。
「あの……」ぼくはいう。
「ん?」リノさんは振り返らない。
「ありがとう……、ございました」
「届けてくれたのはそっちだろう。……こちらこそありがとさん。じゃあね」
リノさんは片手をあげるとそのまま部屋から出て行った。
家主を失った部屋は再びシンと静まり返る。
だけれどどこかこの部屋をあたたかく感じた。
机に上にプリントアウトされた紙の束がある。
リノさんの小説だ。ぼくはそれを覗き込む。朱書きがたくさんされていた。
「――いや、きっとこの小説もリノさんにしか書けないものですよ」
ぼくはそのどこかあたたかい紙束を両手で掴むと胸に抱えた。
これがぼくのはじめての選択だ。
「特別サービスだ」ぼくはだれにいうでもなくいった。「規則なんて、破るためにあるんだからな」
*
そのあと。
規則を破ったせいでぼくはずいぶんと怒られた。当たり前だ。規則はきっと人を怒るためにあるのだろう。でも不思議と後悔はしていない。ぼくはそれをきっかけにきっぱりと仕事をやめた。未練なんてあるわけがなかった。
そういうわけでいまは無職。つぎの仕事を探すためにアテもなく町を歩いている。
金もないし腹も減った。まだ死ぬまではちょっとだけ時間があるし、ならばこれからどうしようという不安もある。
だけれどなんだか清々しい気分だった。
あのとき感じた《ひんやり》はどこかに消えていた。
目の前のスクランブル交差点の青信号が点滅し、ちょっと迷って待つことにする。どうせ急いでいないし、行くところも決まっていない。
どこかでクルマのクラクションが鳴っている音が聞こえる。
ぼくはこれからやりたいことはいくつかあるけれど、どれにしようか悩んでいる。
――あ、小説家なんてどうだろうか。
……いや、ガラじゃないな。すぐにその案を却下する。
とりあえずこのスクランブル交差点をどちらにいこう。
右か左か、それとも引き返す?
うーん、どちらに歩くかというだけなのになかなか決められない。
なんとなく可笑しくなってぼくはひとりで微笑んだ。
「どっちでもいいか。それがぼくの選択なんだから」
青信号に変わる。
周りのひとが足早に動き出す。
そうしてぼくはゆったりとした足取りで、けれども確実に一歩前へと歩き出した。
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