お寺の小僧

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お寺の小僧

 お寺の小僧、声を出して書物とその注釈を読んでいた。 「慈円和尚の書。和尚は憂う。その道の家に生まれた者でさえ、物知り顔をしながら、実のところ古典をろくに読んでいない者も少なくないと。だからそこにから導かれる『道理』というものを学生達に分かり易く伝えようと」  すると庭先のほうで何者かの気配が、この山寺には時々鹿が迷い込む。鹿かと思い縁側の先の庭をみると、見慣れぬ女子が立っていた。 「おぬしは誰ぞや?」  返事はない。 「腹でも減ったか? でもここには大した食い物はない。でもお供え物の饅頭があったかも知れん。とってこよう」  帰ってきたが見慣れぬ女子はもう いなかった。 「うまいぞ。食わんのか? うまいぞ、一つ食べたが、まだ一つある。どうだ、食ってしまうぞ」  その後も何度か現れては いなくなった。 「慈円和尚の書を読むたびにあの女子が現れた。さすれば慈円姫、というのかもしれぬ」  小僧は短冊に、『慈円姫』と書いた。  小僧は大きくなり、寺から戻され、景虎という武将となった。
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