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「雨は嫌だよねー。でも、俺と彼女の出会いは、雨のお陰だったなぁ」
ザンザンと降っている雨の中、矢坂さんは楽しそうな顔で言う。
「そうなんですか。どんな出会いだったんですか?」
「俺が買い物帰りに傘忘れて困ってる時に、〝良かったら一緒に入りませんか?〟って向こうから言ってきてさー! わあ、懐かしいー!」
矢坂さんにしては王道で素敵な出会い方だなと思ったが、そのまま口に出すのは失礼だと思ったので「素敵ですね」とだけ返した。
「北瀬君は、梅雨に何か思い出とかない?」
「うーん」
思い出という思い出は特にない。毎年、浴室のカビ掃除に手を焼くくらいだ。
ただ。
「思い出とは違うんですけど、妹の誕生日が六月なんです」
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