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「しばらく僕の家に泊まる間に、僕のこと好きにさせるから何も心配はいらないし、申しわけないと思うことはないよ!」
「ま、待て待て! 好きにさせるって……⁉︎ それに、しばらく泊まるとは言ってない! 一泊だけで……!」
「行くあてなんかないんでしょ? しばらくホテルに連泊するの?」
「それは……」
うん、と言えない悲しい現実。ホテル連泊は、金の事情で絶対無理。
「……まあ初夏だし、公園暮らしも可能だし……」
「痴漢出るよ」
「俺、男だし」
「僕みたいな痴漢かも」
そう言いながら、一臣は親指を俺の唇にツゥ……と這わした。
その感触と一臣の妖艶な瞳に、ぴく、と身体が反応してしまって……妙に恥ずかしくなる。
「まあ、僕なら京ちゃんを襲ったりしないから安心して! 京ちゃんのことは好きだけど、無理矢理するのは嫌だしさ!」
「す、するって何を?」
「ははは。まあ、涼也もいるしね」
「なあ。するって何を?」
俺の質問には、一臣は笑うだけで答えてくれない。
今の話の流れからするに……やっぱり、まさか、そういうこと?
「じゃあ、帰ろうか」
チロルを抱きながら、一臣が家の方向へ歩きだす。
……絶対に好きにさせると言われた。
ここでついていくのは、何だか怖い。
さっき、唇をなぞられた感触も、やけに残っている。
……だけど、躊躇っているということは、俺が一臣のことを好きになる可能性があるってこと?うーん……。
だけど。
動きだす俺の足。それは、一臣と同じ方向へ。
「チロルは俺が抱く」
「分かった。はい」
ニャーと鳴くチロルを胸の辺りでギュッと抱く。
俺の心臓の音、チロルだけが聞いている。
これから、どんな感情が俺を待っているのだろう?
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