自分の気持ちが分かりません。

7/36
前へ
/309ページ
次へ
「えっ、ちょっ、泉さん⁉︎」 初対面の時から暴言の連発だったのに、何で急に頭下げたりなんか……っ⁉︎ 泉さんは頭を下げたまま言う。 「俺にはあの人しかいないから。お前にとって一臣さんがただの友達であるなら、どうかそのままでいてほしい。好きにならないでほしい」 表情は見えないけれど、泉さんがとても真剣であることが声だけで分かる。 「あ、あの、頭を上げてください! 大丈夫ですよ! 俺、男の人を好きになったことないので!」 俺がそう言うと、彼はゆっくりと顔を上げる。 「本当に?」 「ほ、本当です、本当! 女性しか好きになりません!」 ……それは、本当の気持ちだった。 自分が同性を好きになるイメージは出来ない。だから、嘘は吐いていない。 吐いていないはずなのに…… 「……良かった」 そう言って、安心したように微笑む泉さんを見て、胸の奥がチクリと痛んだのは何でだろう。 「……じゃ、じゃあ仕事行ってきます」 「おう」 何だかそれ以上、泉さんの顔が見れなくて、俺は逃げるようにして玄関を出た。
/309ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5742人が本棚に入れています
本棚に追加