5742人が本棚に入れています
本棚に追加
「えっ、ちょっ、泉さん⁉︎」
初対面の時から暴言の連発だったのに、何で急に頭下げたりなんか……っ⁉︎
泉さんは頭を下げたまま言う。
「俺にはあの人しかいないから。お前にとって一臣さんがただの友達であるなら、どうかそのままでいてほしい。好きにならないでほしい」
表情は見えないけれど、泉さんがとても真剣であることが声だけで分かる。
「あ、あの、頭を上げてください! 大丈夫ですよ! 俺、男の人を好きになったことないので!」
俺がそう言うと、彼はゆっくりと顔を上げる。
「本当に?」
「ほ、本当です、本当! 女性しか好きになりません!」
……それは、本当の気持ちだった。
自分が同性を好きになるイメージは出来ない。だから、嘘は吐いていない。
吐いていないはずなのに……
「……良かった」
そう言って、安心したように微笑む泉さんを見て、胸の奥がチクリと痛んだのは何でだろう。
「……じゃ、じゃあ仕事行ってきます」
「おう」
何だかそれ以上、泉さんの顔が見れなくて、俺は逃げるようにして玄関を出た。
最初のコメントを投稿しよう!