自分の気持ちが分かりません。

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定時に仕事を終え、電車で一臣の家まで帰る。 駅からそう遠くない一臣の家に到着すると、インターホンを鳴らすべきか鳴らさなくてもいいのか玄関先で悩み、とりあえず鳴らさずにドアノブを回して家へと入った。 「お邪魔しまーす……? いや、ただいま……?」 やや挙動不審になりながらも、玄関で靴を脱ぎ、中に上がる。 家の中からは、誰の返事もない。 しかし、玄関には一臣の靴があった。今日は帰りが早いって、朝出かける前に言っていたのを思い出す。 泉さんも、恐らくいるはず。 そろそろと廊下を歩いていると、食堂の向かい側の部屋から話し声が聞こえてきた。 それは、一臣と泉さんの声だった。 入っていっていいものか分からず、部屋の前でうろうろしていると、扉の隙間から部屋の中がチラッと見える。 すると、俺の目に映ったのはーー 「……っ」 思わず声が出そうになって、慌てて口を閉じた。 そして、慌てて扉のかげに自分の姿を隠す。 ……俺の目に映ったのは、一臣が泉さんを優しく抱き締めている姿だった……。
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