売り物と売り方

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私にとっての初めてのお客さんは息を飲むほど綺麗な人だった。 「あ、すみません。少々お待ちください。」 「やばッ!」 覗いていたのがバレたようだ。 引きつった顔の店長が近付いてくる。 「お、お茶でもいれようかな…って。」 「君は店番してくれればいいから。」 ピシャンと部屋から閉め出され、私はまたレジに戻った。 だらしなく頬杖をつきながらため息をつく。 客のこない店で店番だけなんてつまらない。 華やかなところでバイトするっていう目標どこいった? ああでも、店長の顔が華やかだからあながち達成してるのか。 つまらない気分でつまらないことをひたすら考え続けた。 あの人は誰なんだろう。 綺麗な人だったなあ。 花を買いに来たわけじゃないみたいだし。 しばらくして女の人は軽い会釈をして帰っていった。 「あの人誰なんですか?」 「お客だよ。」 そう言って店長はおもむろに花束を作り始めた。 花を買いにきたわけじゃないって言ってたのに。 頭の上に?マークが5つくらい浮いている気がする。 気がするだけ。 「すいません!」 小さなブーケを作り終わるのと同時に男性が駆け込んできた。 「はいはい、いらっしゃいませ。できてますよ。」 「は!?」 店長は狼狽える男性に半ば強引に花束を持たせ店から追い出した。 きっと男性の頭の上にも?マークが浮いているんだろうな。 首を傾げながら去っていく男性を見送りながら、お代をもらっていないことを思いだした。 「え!?」 追いかけようとした私の腕を店長が掴んだ。 「いいからいいから。」 男性の背中を見送りながら店長は意地悪そうに笑った。
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