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出勤すると、店頭に珍しく店長が立っていた。
「今日は起きてるんですね?」
珍しいこともあるもんだ。
エプロンをつけながらそう呟いていると、ガチャンッという何かが割れる音と男性の怒声が店頭から聞こえた。
デジャヴ~。
急いで店頭に出ると、花瓶の破片が床に飛び散った真ん中で店長がいつもの営業スマイルで立っていた。
「原野さん、奥行ってな。」
「そんなこと言われても…。」
状況が状況でパニックになった体は動かなかった。
男性を見つめたまま、店長は変わらず笑っている。
「んだこれ!」
男性が小さな何かを店長に投げつけた。
それは床に落ち、店長が踏みつけた。
何かが割れた音がしたが、それが破片が割れた音なのか投げつけられた物が割れた音なのか私にはわからなかった。
もう何が何やらわからないままだ。
「よくも俺の女奪ってくれたな!」
あ、デジャヴ~。
やっぱり略奪愛?
仕方ないよイケメンだもの。
店長は足元の薔薇を拾い集めると、男性に差し出した。
「お持ち帰りください。」
「こんなものいるか!!」
男性の手が薔薇を振り払い一面に花弁が舞う。
「…そうですか。」
心なしか低い声だった。
ケンカ売ってもバケツを倒してもこんな声は出さなかったのに。
男性が小さく悲鳴を上げた。
花弁は全部床に落ちた瞬間、男性は駆け出していった。
「掃除しないとね。」
こちらを向いた時、店長はいつもの店長だった。
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