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その後の二人『春のたより』2
羽田空港から東京駅に出て、新幹線に乗り故郷へ帰る。車窓から見えるはずの田園風景は、もう真っ暗で何もない。
「帰る……」
その言葉を口に出せば、何故だか少しの違和感を感じた。
今の僕が帰りたい場所は、生まれ育った軽井沢でもなく、両親の元でもない。
そうだ……僕はKaiくんの所に帰りたい。
ふっ……いい加減にしろ。女々しいことを。次に会う時まで頑張るとKaiくんと約束したばかりだろう。
情けない自分が嫌になり、ぎゅっと膝の上で拳を握りしめた。
軽井沢駅からは一人タクシーに乗り自宅に戻った。もう夜も遅い。父は眠ってしまったのだろう。
「お帰り」も「ただいま」もないガランとした家に、まるで誰もいない世界に一人でいるような寂寥とした気持ちになる。
自分の部屋に戻りベッドに腰かけスマホを出し、人恋しくて写真フォルダを開いた。
ソウルの街並み、軽井沢の街並み……美しい景色も雄大な景色も慰めにならないよ。だって人が写っていない、僕の好きな人が。
「こんなことなら、ソウルでKaiくんと一緒に撮ってくればよかった」
飛行機の中であれこれ考えていたのに、実際に生のKaiくんに会ったらそんなことは吹っ飛んでしまった。だって写真なんかじゃ物足りないと思ったから。
そうだ一枚だけ……洋くんの家で行ったクリスマスパーティーで撮った写真があるのを思い出し、フォルダーの奥に隠すようにしまっている写真を開いた。
Kaiくんの温かい笑顔。精悍な姿。
画面に触れれば、会いたい気持ちが一層募ってしまう。
さっき会ったばかりなのに。もうKaiくんの声が聴きたいなんて、女々しいにもほどがある。もう今日は休もう。明日は仕事始めで忙しくなる。熱いシャワーで気を引き締めてから部屋に戻り、電気を消したタイミングでスマホがブルっと震えた。
「もしもし……」
「優也さん、俺」
「Kaiくん」
「その声……寂しがってるな」
「……うん」
素直に頷いた。
「もう?」
「うん……ごめん」
「いや嬉しいよ。俺も同じ気持ち。会わなければ我慢できる夜も、会ったばかりの身にはつらいよな」
「うん」
気が利いたことも言えなく、ただ「うん」を繰り返し頷くだけの僕なのに、Kaiくんはいつまでも嬉しそうに話しけかてくれた。
「さぁ優也さん明日も早いんだろう」
「ん……そうだね」
「もう寝なよ」
「でも……」
電話を切るのが、名残り惜しかった。
「あーもう駄目だよ。そんな甘えた声だして、シタクナル」
「えっ?」
「あーなんでもないって!」
恥ずかしそうに笑うKaiくんに、欲情してしまうのは僕の方。
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