その後の二人 『向日葵に誓って 6』

1/1
前へ
/122ページ
次へ

その後の二人 『向日葵に誓って 6』

    いつもホテルのコンシェルジュとして冷静に仕事をこなしている俺なのに、軽くパニックだよ。  まったく優也はいつも大人しい癖に、時々大胆すぎる!  でもそれが嬉しいよ。  優也から求めてもらえるのが最高に嬉しい!  おっと大事な向日葵の花が萎れたら大変だ。コレが今日のキーアイテムだろう。ラッピングのまま花瓶に挿してっと、そうだ、確か以前研修で使ったテーブルクロス類が、納戸にあったはずだ。  いやいや、その前に優也の着替えだ! 着ていたスーツはびしょ濡れだったから、俺の服を貸してあげないと。自分のクローゼットを開くと、アイロンをかけたばかりのリネンの白シャツが目に入った。  『純白』って……結婚式の色だよな。  よしっ! これで行こう!  そっと脱衣場の扉を開けると、浴室内は静かだった。時折チャプンと水音がするので、どうやら優也は湯船にゆっくり浸かっているようだった。本当はこのまま俺も洋服を脱ぎ捨てて、中に押し入りたいところだが、ぐっと我慢だ。この後のお楽しみにしよう。シャツと肌着を綺麗に畳んで置いた。  それにしても深い紺色のテーブルクロスに、黄色い向日葵が映えている。  祝杯のためのシャンパンも用意済みだ。    我ながら短時間でよくここまでロマンチックに用意できたものだと、その光景を見てニマニマしていると、脱衣場のドアが静かに開いた。  俺のシャツを着た優也の姿にぐっと来る。少し恥ずかし気に微笑む優也のリラックスした笑顔に、ほっとする。 「Kaiお待たせ。上がったよ」 「うわっ可愛いな……俺のシャツでよかった?」 「ありがとう……これ借りるね」 「今日は来てくれて、すごく嬉しいよ」 ****  足元が少し心もとないけれども、大柄なKaiのシャツは僕の太股まで隠してくれた。スースーするので、ズボンも借りなくてはと思いながらリビングに戻ると、Kaiが見事にテーブルセッティングしてくれていた。流石ホテルマンだ。  これ……僕のために準備を?  目が合うと、思わずお互い微笑みあった。  空気のような呼吸を出来るようになった。僕たちも…… 「あの……君のシャツ……大きすぎる?」 「そんなことないよ。おいで」  そのまま手を差し伸べられ、Kaiに背後から抱きしめられた。 「優也……このまま向日葵の花を見ていてくれ」 「うん?」 「あー俺のシャツ着ている優也、最高に可愛いな」  まるで宝物のように優しく抱きしめられ、何度も可愛いと囁かれてくすぐったいよ。  僕はとっくに三十歳を過ぎているのに……全くいつも彼はこの調子だ。でもそうやって甘やかしてくれることが、嬉しくて躰を委ねてしまう。 「本当に嬉しいサプライズだったよ。今日優也が来てくれるなんて」 「うん……今日ハルさんと立ち寄った花屋で、君みたいに明るい花を見つけて、急に会いたくなったんだ。この花はハルさんが僕にプレゼントしてくれたんだ」 「なるほど、それであんなに向日葵を抱えてきたのか。俺のことそういう風に思い出してくれたのか。嬉しいな」 「その……いつだって君のことばかり考えているから」 「優也は本当に可愛いことばかり言ってくれるよな」  Kaiの声が少し改まったので、なんだか心臓が飛び出そうだ。 「なぁ……俺達、そろそろ一緒に住まないか」 「えっ……それって」  Kaiからの唐突な申し出に驚いた。  ソウルに僕が単身でやって来て、松本観光の経営のソウルのホテルも軌道に乗り、やっと生活も落ち着いた。更にKaiと共同でホテルを経営することになったのを機にそうなりたいと思っていたのは僕の方だ。それは僕が言うはずの台詞だった。 「もちろんプロポーズだ。もう離れていたくない。好きすぎる。どんどん好きになる」  くすぐったい程の甘い言葉。  すぐに返事をしたいのに、嬉しすぎて声が出ないよ。 「優也……俺とずっと一緒に暮らそう」‬  うなじを辿るキスが僕を促す。  嬉しくて目を細めると、食卓の上には、僕の買ってきた向日葵の花が嬉しそうに揺れていた。  ── 僕はいつだって君だけをみている ──  太陽のように輝やく花……向日葵。  プロポーズの時に贈る花だと、花屋の店主がそっと教えてくれた言葉がリフレインしていくよ。 「優也……愛してる。いいよな」  コクンと頷くので、もう精一杯……  それでもちゃんと僕の声で伝えたくて、必死に振り絞った。 「Kai……僕も同じセリフを用意していた」 「教えて」 「うん……僕と……一緒に暮らして欲しい」 「それから?」 「君のこと、愛してる」 「ありがとう!」  クルっと身体を反転させられ、背が高い君に深く抱かれた。  僕は少しだけ背伸びして、君の優しい唇に触れた。  君は僕が零れ落ちないように両腕でしっかりと支えて、口づけを深めてくれた。 **** いつも読んでくださってありがとうございます。 『深海』も最終話まで残り1話です。 今日は甘い話を更新したくなりました♡ いつも『深海』や『重なる月』『幸せな存在』などを応援してくださってありがとうございます!次回は久しぶりにふたりの熱い~Rを書きたいと思っています。感想やペコメもお気軽にどうぞ! 本日深海のスター特典(15スター)をあげさせていただきました。 ここまで読んでくださった方へのお礼の気持ちです♡
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1879人が本棚に入れています
本棚に追加