季節の番外編♡ハロウィン・ハネムーン 7

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季節の番外編♡ハロウィン・ハネムーン 7

 最終電車で北鎌倉に到着したのは、夜中の零時半過ぎだった。駅前にはタクシーが数台しか停まっていないので、俺たちはゆっくりと歩いて月影寺に行くことにした。  この山道をのんびり20分程歩けば着くはずだ。事前に話していた時間よりもかなり遅くなってしまった。でもさっき電車の中から洋にメールすると、月影寺も今日はハロウィンパーティーを急遽開催して盛り上がっていたので大丈夫だと快い返事が来た。  いつになく上機嫌の洋の様子に、彼が幸せに暮らしていることが伺える。一時期は俺がボディガードまでしていた儚げな洋だったが、本当に明るくなったものだ。 「どうした?優也、さっきからずっと黙って」 「いや……こんな風に君とのんびり歩くのは久しぶりだなと思って」 「そうだな。俺たち夜は仲睦まじく出来るが、なかなかこんな風に夜道を歩く余裕はなかったよな。この数年……月も綺麗だ」 「本当に月日はあっという間に流れるものだね。ここに来るのは久しぶりだ。月も綺麗だし夜風も気持ち良いね」  穏やかな十月下旬の日本の気候、季節はソウルよりも1カ月程戻った感じで、夜風が心地いい。しみじみと語る優也の心は、今とても凪いでいるようだ。  今宵の仮面舞踏会で、前の彼氏と会わせるのは強引かとも思ったが、あれはあれで良かったようだな。何より彼の穏やかな表情が物語っている。 「手、繋ごうか」 「うん」  ふたりでしっかり絡め合う手に、軽井沢で優也と初めて躰をつなげた日のことを思い出した。  糊のきいた白いシーツの上に裸に剥いて……俺の腕の中で上下に揺さぶると、彼は顔を切なげに歪ませた。前の彼と俺との愛撫の差に戸惑っているのが伝わってきた。それでも俺に躰を必死に開く様子に……無性に愛おしい気持ちが込み上げて来た。俺の肩にしがみついて来る優也の手を、絶対に離すものかと誓った。  俺はあの時……冬の東京で初めてすれ違った夜、今にも儚く消えそうだった白いマフラー姿の優也。ソウルの陽だまりの公園でずっと俯いていた優也。明洞のカフェで一人で時をやり過ごしていた優也。彼の寂しそうな姿を、次々に思い出していた。  ずっといつだって……気を抜くと、海の底に沈んでいきそうな優也だった。  だがもう絶対に沈ませたりしない。もっと貪欲に俺を求め付いて来て欲しい。そんな願いを込めて細い躰を抱いた。何度もまるで彼を陸に突き上げるように激しく貫いて濡らした。 「Kai、何を考えている?」 「あ?軽井沢で初めて君を抱いた時のことさ」 「えっ?何で……」  優也の顔がまた赤く染まる。 「そうだ、月影寺では離れを所望したよ」 「そんなリクエストを?」 「俺はソウルで洋の世話を散々したから、今度はこっちで洋に一肌脱いでもらわないとな」 「?」  訳が分からない様子の優也の顔が可愛くて、あー早く抱きたいとウズウズしてくる。そんな俺の気持ちを見越したのか、優也の方もますます顔を赤く染めた。 「Kaiはさっきから煽るね。僕も君に……ゆっくり抱かれたいよ。そうか……明日の新幹線が午後の予約の理由がわかったよ」 「ははっバレバレか」 「僕がいつも穏やかな気持ちでいられるのは、全部君のお陰だよ。君がしっかり僕を抱いてくれるから、いつだって僕は浮上していられる」 「優也と俺はいつも同じ気持ちだからな。優也がいる場所が俺の居場所だから、求め合う所が同じってことだな。今日は優也のことをたっぷり抱くからな。これは俺たちのハネムーンなんだからいいよな」 「うん、分かった。僕も同じ気持ちだよ。あっ山門が見えて来たよ」  優也も俺の求めに応じてくれるようで心が躍るよ。すると国道沿いの月影寺の山門が見えて来た。 「おーい!」  久しぶりに会う洋はますます色気が増して、まさに新妻って感じだ。幸せオーラが眩しい程だった。 「Kai!優也さん久しぶりです」 「元気だったか」 「うん。この通りだよ。しかし随分遅かったね」 「渋谷で仮面舞踏会に行ってきた」 「へぇ、流石都会だな。あぁだからタキシード姿なんだね」 「まぁね」 「でも積もる話は明日にしよう。とりあえず今日は泊る場所を案内するよ。あっと……」 「ほら、洋しっかり歩け。階段、踏み外すなよ」 「うん、分かっているよ」  洋はもう眠そうだ。酒を飲んだようで足元がおぼつかないのか、丈さんが横で支えている。 「洋、悪いな。俺たちも早く寝たいから、そうしよう」 「ふっ……それ意味深に聞こえる」 「まぁな、で、いい部屋を用意してくれたか」 「うん、離れをね。あ……ただ今日になって急に泊り客がもう一組……彼らとは部屋を離してあるから大丈夫だとは思うが……出来るだけ静かにしろよ」 「分かった、分かった!サンキュ」 **** 丈と洋の話は別途連載中の『重なる月』になります。 単独でも分かるように書いていきます。
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