季節の番外編♡ハロウィン・ハネムーン 8

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季節の番外編♡ハロウィン・ハネムーン 8

「ここは以前宿坊として使っていた離れだ。Kaiと優也さんには、一番奥の『静の間』を用意したよ。名前通り離れの最奥にあるのでとても静かだし、風呂場はすぐ隣にある。もう布団も敷いてあるので自由に使って……これでKaiの夢は叶いそうか」 「あぁ最高のロケーションで、バッチリだ。ありがとう!恩に着るせ。それにしても洋は眠くて限界そうだな。後は俺たちでやるから大丈夫だ」 「でも……部屋まで案内するよ」 「いいって。丈さん、洋を早く寝かしてあげてください。また明日ゆっくり挨拶しますので」  洋は話している最中から舟を漕いでしまっている。彼がこんなにリラックスしている姿は初めて見るな。それだけこの寺での生活が満ち足りたものというわけか。本当に良かったな。もうソウルでのあんな切羽詰まった表情を見ることはないだろう。  かつての護衛としては、本当に肩の荷が下りた気分になるよ。 「悪いな。じゃあ……言葉に甘えて、ここでお休み」 「お休み」  丈が洋を支えるようにして彼らの愛の素に戻って行く様子を、温かい目で見守った。 「あれ……Kai、こんな所にもハロウィンの飾りがしてあるよ」 「本当だ!」  優也が指差す方向を見ると、母屋から離れへの渡り廊下の所々にハロウィンの飾りが施されていた。今日はハロウィンパーティーをしたとは聞いていたが、寺なのに、ここまで本格的に飾り付けしているとは驚いたな。 「でも、これって鬼灯だよね」 「だな。鬼灯に行燈か……寺にある和物を上手く使っているし、センスがいいな。これは素人の飾りつけじゃないよ。たぶん装飾のプロがしたのでは」 「流石、Kaiは目聡いね」 「うん、ソウルのホテルで働いていた時、懇意にしていたフラワーアーティストがいてね」 「へぇ……それは初耳だよ」 「優也、もしかして俺に妬いてくれた?」 「べっ別に……」  優也は何食わぬ顔をしているが、繊細な彼の心の微動が手に取るように分かる。俺は優也に寂しい想いや悲しい思いをさせたくないので、その都度早い段階で拭い去るよう心がけている。  繊細な優也の考えは、いつだって俺の心の琴線に触れるものだった。だから俺と優也は互いの違いを認め合いながら、寄り添っていける。 「可愛いな。俺には優也しか見えていないよ。そうだ!せっかくハロウィンの飾りがしてあるんのだから、またこれつけようぜ」 「仮面を?」 「そう。古寺と仮面伯爵ってアンバランスだが面白いよ」 「今日は特別な夜になりそうだ」  優也と仮面をつけて長い廊下をひたひたと無言で歩いていると、小さな足音が後ろから聞こえ、それから小さく息を呑む声も届いた。  ん? あぁそうか……洋がさっき言ってた先客かな。どんな関係かしらないが挨拶をしようとクルっと振り返ると、彼らは声にならない悲鳴をあげながらドタバタと一目散に部屋に逃げて行ってしまった。 「あれ? どうして……そんなに驚くんだよ」    優也は仮面を慌てて取り、申し訳なさそうにしていた。 「もしかして僕達の仮面に驚いたのかも。いきなりこれでは……まるで幽霊だ」 「くっくく……本当だ。悪いことしたな」 「よく見えなかったけれども、小さな男の子もいたようだよ」 「まぁ今日は遅いから、明日改めて紹介してもらおう。それより早く部屋に行こう。まずは風呂入り、それから優也をゆっくり味わうよ」 「もう……Kaiは本当にストレートだな」 「嫌か」 「……いや、そういう所が好きだ」 「よかった。ちなみに朝まで寝かさないつもりなんだけど」  優也の顎を掴んで囁くと、優也も負けじと長い睫毛を伏せて煽って来る。 「……期待している」  はー幸せだ。 **** 『幸せな存在』「深まる秋・深まる恋」19とリンクする内容でした。
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