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さよならの行方 6
「優也……ありがとう。好きだよ」
初めての行為に対する痛みと味わったことがない快楽に泣かされ、ぐっしょりと濡れた頬に、翔が優しく降る雨のようなキスを沢山落としてくれた。
「大切にする」
「翔……僕も嬉しいよ」
「本当か、そう言ってくれるのか」
僕の躰には翔の躰の一部が入り込んでいる感覚がまだ強く残っていたが、不思議なことに違和感よりも満足感の方が大きかった。確かに今夜僕の身に起きたことは、今までの人生を覆すかのような驚きであり、俄かに信じられない出来事だった。
でも相手が翔だったからなんだ。
僕は何もかも無条件に許せてしまった。
僕はこれで翔の周りに集まって来る人たちよりも、もっと近い場所にいられるようになった。翔にとって特別な存在になれたような気がして、心から嬉しかった。
****
突然犯され躰を繋げたあの日から、僕と翔は恋人同士になった。
もちろん社内では秘密だったが、翔は僕の躰を求めるだけでなく仕事でもいつも手厚くサポートしてくれて、最高に優しい理想の恋人だった。
僕はそんな翔のことが大好きだった。いつもリードしてくれ、頼り甲斐がある翔。だから僕は翔の言うことならなんでも信じられたし、従うことも出来た。
最初はもしかして翔のきまぐれで、いつ捨てられるのかと冷や冷やしたスタートだったが、一年、二年と一緒にいるうちに、いつしか僕も翔の恋人として自信を持てるようになっていた。
落ちこぼれだった通訳の仕事も、翔が万全のサポートをしてくれたおかげで、メキメキと上達しお互いの関係は公私ともに良好で安定していた。
仕事帰りに翔と食事をし、週末になると翔の家に同棲しているかの如く泊まり込み朝まで何度も何度も躰を求め合った。繋げ合った。
躰の相性もとても良かった。数えきれないほどお互い求め合っても、飽きるということを知らなかった。
優しく華やかで頼り甲斐のある翔は自慢の恋人だったから、僕は持てるすべてのものを翔に委ね注いでいた。
もう完全にお互いに溺れていた。
しかし月日が経つのは早いもので、あの最初の夜からもうすぐ三年が過ぎようとしていた。
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