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傷心旅行 2
翌日、僕は重たい躰をひきずるようにベッドから這い出た。丸一日ろくに物も食べずにひたすらに泣き続けたので、流石に涙も枯れてしまったようだ。
躰中の水分が失われたように、カサカサと干からびた気分だ。冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し一気に流し込んだ後、風呂場で鏡を見つめた。
「我ながら……すごいな」
翔につけてもらった印が躰の至る所に、まだ色濃く残っていた。一昨日いつものように仕事帰りに一緒に食事をして翔の家を訪れた。僕たちはお互いの休日を合わせていたので、翌日休みの時は翔の家で抱かれるのは約束事になっていた。
玄関に入るなりそのままもつれ合うようにキスをして抱き合い、更にベッドに潜り、夜明けまで深く愛し合ったのだ。
一昨日の翔はいつもよりも執拗に僕を抱き、何度も何度も僕の中に翔の熱いものを放って満たし、躰中に隈なく痕を残していった。
しつこ過ぎた行為。
それは、もう僕を抱くのを最後だと決めていたからだったのか。
躰中につけられたキスマークは翔からの愛の証。
そう思っていたのに、今は残酷な印でしかない。
内股のきわどい部分や首筋の外から見えそうな位置にまで、念入りに散りばめられた印が恨めしい。
もう僕の翔じゃない。
翔の僕じゃない。
それなのにこんな場所にこんなに沢山の所有の証を残すなんて、残酷な男だ。まったく翔はいつも自分勝手だ。
「はぁ……」
これから一体どんな顔で、翔と顔を合わせて行けばいいのか。出社するのが気が重くてしょうがない。
鏡に映った生気のない冴えない顔色の男が僕だ。
翔が可愛いと何度も囁いてくれた面影なんて欠片もない、憔悴しきった哀れな自分の顔を、ぼんやりと見つめた。
人生の目的も目標も失った。
哀れな捨てられた自分に苦笑した。
僕のすべてだった翔に突き放されて、これからどうやって生きて行けばいいのか。
その答えはまだ見つかっていない。
おそらく、もう二度と見つからないだろう。
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