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その後の二人『春のたより』3
……シタクナル?
Kaiくんの言葉に、過敏に反応してしまい、躰も心も両方跳び跳ねていくようだった。
僕もKaiくんの温もりが欲しくて堪らない。
「優也さん、さぁもう眠って、眠れないなら俺のシャツを抱けばいい」
「シャツ?あっ…」
言われた通りに、脱ぎ捨てたままだったKaiくんのシャツにそっと手を伸ばす。
「近くにある?」
「うん」
「じゃあ俺だと思って抱きしめて」
「え……うん」
少し照れ臭かったが、言われるままに手に取り抱きしめれば、ふわりとKaiくんのにおいを感じる。
「どう、俺の匂いする?どんな?」
「する。Kaiくんがいつも使っているトワレの香りがする」
「そうグリーンティーの香りだよ」
そしてもっと深く吸い込むと感じられるのは、僕を抱く時に発せられるKaiくん自身の匂い。
「あーあ、なんか優也さんだけいいな。俺も何か優也さんのもの貰えばよかったな」
拗ねたような口調が微笑ましく思うと同時に、Kaiくんのシャツを借りた時に僕のものを残してこなかったという気の回らなさに、落胆してしまった。
「ごめん……僕は気がまわらなくて」
「え?あーそんなつもりじゃなかった」
受話器の向こうで、焦っているKaiくんの様子が浮かんでますます落ち込んでしまう。あ……でも一つだけ。でも、こんなこと口にするのも恥ずかしく少し躊躇した。以前の僕だったらこんなこと絶対に言わなかったことだ。
でも離れている今、言葉で伝えないと伝わらない。
「……シーツに……僕の残り香……があるかも」
※:残り香(のこりが)…いなくなったあとに残る、その人のほのかな匂い。
自分からそんなこと言うなんて、恥ずかしい。それでも、今すぐにでもKaiくんの傍に飛んで行きたい気持ちをちゃんと伝えておきたかった。
「あっシーツか」
受話器の向こうにベッドが軋む音と、布が擦れる音がした。なんだかその様子を想像すると、恥ずかしいやら可愛いやらで泣けてきた。
「やった!優也さんの匂いした!俺もうこのシーツ洗えない」
「え?それは汚いよ。早く洗って」
「いや永久保存だ」
「絶対洗うこと!」
「ははっ優也さんそういうところはいつも頼りないのに、しっかりとした口調だよね」
「え、いや……でも」
「俺達さ、幸せだな。こんなことで笑い合って、こんな繊細な気持ちになったの俺初めてだ!」
「それは僕だって同じだ」
ソウルと日本
時差もなく、飛行機で三時間もかからない国。
遠いと思えば遠くなり、近いと思えば近くなる距離だ。
どう感じるかは僕たち次第。
今は離れていても、互いの匂いに包まれて眠りにつく。
そんな距離にいられることが、嬉しかった。
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