その後の二人『春のたより』4

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その後の二人『春のたより』4

 ソウルから帰国した翌日、朝一番に母の病院へ向かった。  つい一昨日のことだ。この病院に寄ってからソウルへ飛んだのは。たった二日にも満たない自由な時間だったが、信じられない程の幸せをKaiくんからもらった。  そして昨夜も電話で愛を伝えあった。Kaiくんの愛は陽だまりのように心地良く、僕を優しく解してくれる。僕はKaiくんに愛されることにより、自信を取り戻せた。そして自分自身を大切に思えるようになった。 **** 「優也どうしたの?昨日は珍しく一度も顔を見せなかったわね」 「ごめん……忙しくて」 「そうなの?心配しちゃった。またあなたが消えてしまったのかと」  病室の白いカーテンを背景に、母にじっと見られると居たたまれない思いが込み上げてしまった。そして胸が痛くなる。  僕が翔との恋に溺れ、破れ、何もかも捨ててソウルに籠っていた日々。  母がどんなに心配し、どんなに探してくれたのか知ってしまったから。 「……もう消えない」  たとえKaiくんとのことを反対されても、もうあんな風に何も言わずに消えることはしない。 「優也?あなた、なんだか疲れているみたいよ」 「大丈夫だよ」  僕はKaiくんに抱かれて来た。でも恥じることはない。愛し愛されてきただけだ。そう大声で叫びたいはずなのに、そのことが母の前では居心地が悪かった。  母は心臓の手術を受けたばかりだ。リハビリ中の母に負担をかけることだから、まだカミングアウトするなと、父と姉からきつく言われていた。  何もかも話して楽になりたいと思うのは僕のエゴで、なんの前触れもなく聞かされた方の身にもなってみろと。返す言葉が見つからずぼんやりと彷徨っていると、母は何かを思い出したように嬉しそうに微笑んだ。 「そうだわ!優也この写真を見てちょうだい」  嫌な予感がした。  手渡された写真を開くと年若い女性が振袖を着て優しく微笑んでいた。その写真を見ても自分の心は少しも揺れ動かないので、申し訳なさが募るばかりだ。 「昨日仲介の方に持って来てもらったのよ。可愛いお嬢さんだと思わない?こんなお嫁さんだったら、きっと上手くいくわよ、ねっそろそろいいでしょう」 「母さん……僕は」  もう話してしまいたい。そう思うのに、やはり話せない。  かといって、その気もないのに見合いをするなんて相手にも申し訳ないことだ。  どうしたらいいのか、頭が痛くなるばかりだ。 **** 「優也どうしたの?浮かない顔をして」  会社の事務所でPCを前に溜息をついていると、姉が話しかけてきた。 「せっかくお休みをあげたのに、その顔はどうしちゃったの?まさかカレシと喧嘩でもした?」 「違うよ」 「そっか、じゃあなんでそんな顔しているの?」 「朝……お母さんのお見舞いに行って来たよ」 「あっもしかしてお見合いの話聞いちゃたの?」 「……そう」 「そっか……お母さん今回はかなり乗り気なのよね。困ったわね」 「姉さん僕はどうしたらいいのか分からない。Kaiくんのこと真剣なんだ。隠し事をしているようで居たたまれない、でもお母さんが心臓を悪くしたのは僕のせいでもあるから……僕は…」  分かっている!  姉に相談しても、どうにもならないことだ。  いつまでこうやって周りを頼るつもりだ。  優也、しっかりしろ。  どうしたいのか。  どうなりたいのか。  答えは自分しか出せない、持っていない。  急にやるせない想いが込み上げて来て、席を立った。 「ごめん、ちょっと屋上に」 「優也……」
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