第一話 人ごみ

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第一話 人ごみ

ー 怪物一年生、(あらわ)る! ー  負けて当たり前と臨んだ3回戦。優勝候補相手に、無名の僕たちが、代打逆転さよなら満塁ホームランという、漫画のようなまぐれ勝ちを納め、世間は大騒ぎになっていた。  試合翌朝、校舎内では、全校生徒が群がり、ちょっとした人ごみが出来ていた。その中心部では、山遠(さんとお)先輩、西葛(にしかつ)先輩、大田中(おおたなか)先輩、オータム先輩が、うちの四本柱として、縣山(かたやま)先輩と生桐(いとう)先輩は、好走塁で人気を博し、放送部や新聞部から取材を受け、みんなからサインを求められていた。  島上(しまがみ)先輩は、『私が、デッドボールでチャンスを繋いだ島上でございます!』と、大きなスケッチブックに書いてアピールしていたが、無視されていた♪  その島上先輩が、登校して来た僕に気づき、「怪物一年生、現れました~!」って、大きな声を上げると、先輩たちに注目していた人ごみが、一斉に、「ウワ~ッ!」と、こっちを向いた。  ちょっと(こわ)かった。  僕にも取材とサイン攻勢が始まり、その横で島上先輩はスケッチブックを持ち続けていた♪  赤井さんのお尻に、静かなエロ妄想を抱いて始まった僕の高校生活が一変! 取材を受けたり、サインを求められたり。一躍、時の人となっていた!  今まで、こんなにチヤホヤされたことがないので、ついつい勘違いしそうになる自分もいたりする。念のため、僕にサインを求めて来たクラスメイトのキャピキャピギャル、喜屋比(きゃぴ)さんに(たず)ねてみた。 「はい、サイン」 「OK、サンキュー♪」 「サインつっても、名前書いただけなんだけど、こんなんでいいの?」 「いいのいいの! 芸能人みたいなサイン考えたら、また、色紙に書いてよね~」 「OK~! で、喜矢比さんさ~」 「何々ッ?」 「昨日のホームラン以来、僕にサインくれって言う女の子、やたらいるんだけど……」 「ウン」 「これって、もしかして、僕にモテ期が来たーーーあッ!?」 「ハハハッ! 超ウケるんですけどッ!」 「サイン求めて来る女の子と、付き合えたりするチャンスとかある?」 「ないないッ!」 「え~~~、うそ~ん?」 「オータム先輩だったら、付き合ってる彼氏と別れてでも、みんな付き合いたいだろうけど、たもっちゃんは、ないよ!」 「どストレートに、ハッキリ、言うよね~!」 「たもっちゃんの場合は、昨日のまぐれホームラン以来、万が一、何かの間違いで、間違い続けて、プロ野球選手やメジャーリーガーにでもなって、活躍するようなことがあったら、初期のサインってことで、値打ちが出るじゃん」 「はぁ~……、でっ?」 「で、値打ち出たら、ネットオークションで、高く売れるじゃん! 美味しいもの食べに行けるじゃん! 服、買いに行けるじゃん!」 「くぅ~ッ! 女の子って、現金なもんだな~!」 「そっ、だから、『俺、モテ男になった~!』とか『俺、イケてる~!』とか、勘違いしないでさ、道を踏み外すことなく、謙虚に生きなよ!」 「はいッ!」  何か傷ついちゃうんですけど、喜矢比さんがズバッと教えてくれたおかげで、勘違いせずにいられそうだ!   一時的な、人気絶頂の人ごみを抜けると、雪国だった……、みたいな♪  モテ男の人生は、世の中のモテ男たちに任せて、ハァ~……、僕は謙虚に生きよッ! ー 第二話へ、つづく ー
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