順調にイジメられる

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順調にイジメられる

 部屋へ入ると、さっそくイジメが始まっていた。私以外の班員を再度確認すると下記のようになる。 女子バレー部のモモカは、平気でキツイ言葉を使うジコチュー女。   新聞部のサラは、頭が良く落ち着いているが無口。   放送部のアサミは、おしゃべりが大好きなチャラチャラした女。   文芸部のサチコは、何を考えているのか想像できない変人。   陸上部のアメリは、男子にモテたいだけの色気づいた女。  部屋は二段ベッドが向き合って、入り口側、窓側と続く8人収容可能な部屋。なぜか皆、窓側と上の段が嫌いらしく、私が部屋に着くとアメリが妙に冷ややかな口調で言った。 「あなたは右側、窓側の上の段よ。いくら足が短くてもハシゴ上れるでしょ。フフフフッ・・・それにしてもトビオと仲いいのね。ま、あんな男子に好かれたいとは思わないけど。あなた、トビオと付き合ってみれば?」 「アメリさんが、そう言うなら、付き合ってみようかな。」 私は深い考えもなく、そう言ってみた。  私の言動に対し、教育委員会から『ただいまの発言、問題あり』とのメッセージが届く。何が問題なのかについての説明はない。『指示お願いします』と返信を返すも、それっきりである。無責任なのか無能なのか、言いっ放し、指示しっ放しである。  私の向かいの窓側の上段はサラ。サラの下はサチコ、私の下はアサミ。廊下側の下段にモモカとアメリが陣取っている。  アサミは今夜の班対抗ゲーム大会について、こんな提案をした。 「今夜のゲーム大会は、各班から二人ずつ参加するゲームが3種類あるけど、どのメンバーがどのゲームに出るか、決めておきましょう。今夜、勝った順番で明日の登山のルールを決められるらしいわ。マジ、登山とかしたくないけど。少しでもラクしたいから。今夜は何としても勝っておきたいのよね~」  ゲームAは、この研修施設に隠されたカードを一枚でも多く見つけるカード探し。つまり足の速さが勝負を決める。  ゲームBは、体育館で一般常識問題を出題され、二択で正解者と不正解者を分け続ける勝ち残りゲーム。一般常識があるかないか。私の場合、ネット検索を秘密裏に使うことは可能であるが、それは本来の任務に即しない。  ゲームCは、研修施設の周辺のホテルや旅館、レストラン等を回り、不特定多数の人々に『座右の銘』を聞いてくる。3時間以内に一つでも多くの『座右の銘』を集めてくる。例えば、10人に聞いて10人とも同じコトワザを言った場合、それは一つとしてカウントされる。運もあり人選のセンスも必要となる。  言いだしっぺのアサミは 「ねえアメリ、私達はおしゃべり得意だからゲームCに出ましょう?アメリはかわいいから、おっさんたちは喜んで答えてくれるわ、きっと。」 と強引に自分の欲望を押し通そうとした。  あわてたモモカは 「あらアメリは陸上部だもの。足で勝負するゲームAに、私と組んで出てもらわなきゃ。他に足早い人いるの?」 と威圧的な視線をみんなに送った。  文芸部のサチコは 「じゃ、私と新聞部のサラは、ゲームBに決めた。それくらいしかできないから。」 と守りの姿勢のように見せかけながら攻めてきた。  アメリは、アサミとモモカに引っ張られ顔面が引きつっている。アメリと組めない人は私と組むしかないのだ。アメリは困ったあげく 「アサミとモモカ、じゃんけんしてよ。勝った人と組むから。」 と提案。  するとモモカは急に目を吊り上げて言った。 「ずいぶん偉そうじゃないの、アメリ。そういう態度なら、私とアサミで組むわ。あなたは、そこの不細工とゲームCに出たらいいわ。」  アサミは青くなって言った。 「勝手に私のことまで決めないでよ。モモカは走るの早いんだから誰と組んでも関係なく一人でどんどんカード見つけられるでしょ。私はアメリとゲームCに出たいの。」  そんな言い争いに巻き込まれたら面倒と判断したサチコはサラと連れだって、すかさず部屋を出て行った。  要するに、皆、私と二人で組むことを恐れているのだ。何がそんなにイヤなのか?不思議である。ダサい女と組むだけでダサいと見なされるものだろうか?イジメられる側の人間といっしょに行動するだけで、そちら側の人間と思われるルールでもあるのだろうか? 「あの・・・私と組むのがイヤなんですよね?じゃあ・・・私、仮病で休んでるから。それで・・・何とかしたらどうですか?」  アサミとモモカとアメリは私の発言に互いの顔を見合わせた。小さな声で 『どうする?その方がいいかも・・・そうしてもらう?』 などと話し合っていたが、モモカが 「じゃ、そうしてくれる?私は一人でも大丈夫。」 と、悪びれもせず言い切った。  「わかりました。じゃ、私は頭が痛いと先生に報告して来ます。」 私は廊下に出た。私が部屋を出たらすぐ、キャーキャーと3人が盛り上がって騒ぐ声が聞こえた。何という幼稚で原始的なイジメだろう。高校生にもなって情けない。
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