トビオのモデル

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トビオのモデル

 次の日は登山だった。昨日のゲームの結果で八合目まで登る班、九合目まで登る班、頂上まで登る班に分かれ、頂上まで登る班は朝6時から登り始める。 私たちの班は昨夜まともにゲームに参加できなかったので、頂上まで登る。班ごとに登るのだ。きっと私の足が遅い事で、みんな不満を言うだろう。 あまり整備されてない石ころだらけの道を登り始める。始めは仲間に遅れがちだったが、幸い私は疲れることはない。次第に皆が疲れてくると追いついた。 八合目で休憩。教育委員会からメッセージが送られてきた。  トビオのモデルに関する情報。  4年前、○○県の有名進学校で高校2年の男子生徒が自殺した。笠原浩介。成績優秀、バスケット部の部長、次期生徒会長に立候補する予定だった。  ところが、バスケット部員の間でイジメが発生。うち一人の部員は電車に飛び込み自殺した。イジメられた他の数人の親は教育委員会を訴えた。  浩介は、そのイジメに関わっていなかったが、多少なりとも気づいていた。学校は教育委員会との対応の中で、顧問の教師を追求した。顧問の教師は苦しんだあげく、逃げ場として部長の浩介を追い詰めた。教育委員会に報告・説明する責任を部長である浩介に求めた。    父親は浩介に言った。 『そのくらいのことできるだろう。説明するだけだ。お前が責任をとる必要はない。』  だが問題は簡単に解決せず、何か月もの間、浩介は教育委員会からも顧問からも追い詰められ、疲れ切って死を選んだ。  浩介の親は、国家公務員である。ハッキリ言えば、浩介をAIとして蘇らせたのは彼の父親だ。  イジメ防止を目的としたAIを作る決定をしたのは組織である。その決定に基づき、実際にAIをプログラミングした技術者は浩介の父親である。  父親は、自分の責任を感じ後悔しただろう。もし浩介が生きていたら、という願いを込め、父として男として人間として、浩介の幸せを祈って製作されたAIがトビオである。なお、トビオが現在、住んでいる家は、浩介の実際の祖父母の家である。以上。報告まで。  そんな悲劇があったのか。トビオの過去ではないが、浩介と父の気持ちを察すると、トビオの動向は理解できる。父はきっと、トビオに恋くらい経験させたかった。だから血液だけじゃなく、消化機能の他、唾液や精液を分泌する機能まで工夫した。その上、本人が自分は人間であることを疑ってさえいない。実によくできたAIである。ある意味、うらやましいと思う。  そんなことを考えながら黙々と山道を登る。気がつけば、班の仲間たちは、まだずーっと下の方を歩いている。ウッカリした。私は近くにあった岩に腰かけて休むことにした。アメリが一番先に登って来て 「田中さん。意外と体力あるのね。陸上部に入れば?マラソンとか得意そうじゃない?」 と言った。 「まさか。こんなに太ってるし。ゆっくりしか動けないから。外の競技は雨に濡れる確率が高いし。防水機能・・・いや、雨って苦手なの。」 危ない。警告が来ちゃう。
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