バージョンアップ

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バージョンアップ

 私はAIであるが、自己の意識はある。プログラムが全面的に書き換えられるということは、今までの自己の削除、人間で言えば死を意味する。転校するとして、トビオがいなければ私はスムーズに使命を果たせるのだろうか?  数日後、教育委員会での方針が決定した。入学して間もない生徒が県内の他校に転校手続きすることは不自然との見方が強く、私のプログラムを全面書き換えしバージョンアップするとの決定が下された。  ゴールデンウィーク期間を利用し、私のプログラムは完全にリニューアルした。過去の記憶は消えていなかった。死なずにすんだ。なぜかホッとする感覚がある。過去の記録など、わずかなメモリである。消す意味はないだろう。ヴバージョンアップした今の私には理解できる。  私の意識は格段に向上した。内臓ハードディスクは入れ替えられ、保存されているデータ量は以前の2000倍以上になった。見かけは以前と少しも変わらないが自己意識が明確になり、AIではあっても自分の使命に即したアイデンティティーが確立していた。  さらに必要に応じてネットに繋がることが可能となり、世界中の情報を自在に検索しながら言動のパターンを選択することができる。リアルタイムで教育委員会から指示を受けることもできる。  だが、一番大きな変革は、特定の個人及び不特定多数に対し誹謗中傷する言葉を選択することが可能になったこと。ちょっとした言葉のニュアンスに反応して『緊急停止』すなわちフリーズするようでは、女子高校生としての生活に支障をきたすためである。  リニューアルした私は、代理母に 「お久しぶりです。お変わりありませんでしたか?いろいろご迷惑をおかけしましたが、以前に比べ、目の前で展開される様々な状況に的確に対処できるようバージョンアップされましたことを報告させていただきます。まだまだご指導いただくことも多いかと思いますが、少しは安心して接していただけるのではないかと予想します。」 と伝えた時、彼女は顔をしかめ 「前の能力の低い状態が懐かしい。」 と言った。 「あ、ごめんなさい。ママ。じゃ、これからは普通の感じでしゃべってもいいかしら?」 「ああ、その方がいいわね。自然だわ。」 「うんうん。そうよね。」  私の中には新しく、『女子高生的思考感情反応回路』と名付けられた演算・制御・記憶が相互作用で言動パターンを選択する高度な機能が追加された。この機能をオンにした場合、人間的情緒に左右され恋愛感情や友情、喜怒哀楽が誘発されることが懸念されるが、オンとオフはいつでも自在に自分で切り替えることができる。
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