入学式の事件

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入学式の事件

 私は女子高生に見えるAI。超どブスな顔と小太りの体が特徴。頭は悪く、声もガサガサ。髪は真っ黒でオカッパ。肌はサメ肌でキメが荒く、色黒。足は短く運動神経も最悪。言ってみれば、いくらなんでも、ひど過ぎるというイケテない女子高生。  そもそも私は、他の女子高生のモチベーションを上げることを目的として、某県教育委員会の発案で試験的に製作されたAI。機械名は『ど・ブスロイド』であるが、高校には『田中ユカリ』という名前で通っている。  女子高生のイジメや自殺が相次いだ某県立▼▼高校の実情を探り、同時に、 『こんなブスでも何とかやってるんだから、自分はまだマシ!』 という優越感や安堵感を、他の生徒に感じさせることが目的である。  私の目や耳には高性能のカメラとマイクが仕込まれており、私が見聞きしている情報はリアルタイムで教育委員会のとある一室で放映されている。その部屋は、間違っても一般住人に知られることがないよう厳重に隔離されている。  さて、4月から新入生として1年2組に配属された私は、入学式が終わった後、教室で担任が何か説明している時、オシッコをもらすことになっていた。初めから同級生に『マジ最低!』という印象を植え付けるためである。  私が前触れもなくジョロジョロとオシッコをもらすと、周りの生徒たちは何も言えず、うろたえた。ところが私の横に座っていた男子生徒が立ち上がり、 「先生。この方、体調がすぐれないみたいなので、僕、保健室まで連れて行きます。さ、君。早く行こう。」 と私の腕をつかんで教室の外に出たのである。これは予想外の展開である。  廊下に私を連れだした生徒は 「大丈夫。今日は入学式だから、まだ、みんな、お互いの顔も名前も憶えていない。気にすることないさ。とりあえず保健室に行けば、着替えの下着くらい用意があると思う。」 そんな優しい言葉をかけて私を保健室へ連れて行った。念のため説明しておくが、高校の教員には、私がAIであることは知らされていない。私の秘密を知っているのは某教育委員会の幹部数名だけである。  その日、私は放課後まで保健室で休むことになった。私を連れだした生徒、山村トビオは爽やかに微笑み 「考え過ぎないように。元気出して。明日きっと学校に来いよ。困ったことがあったら僕に言って。」 と言い残し保健室を出て行った。  私の中で、この状況は『マズイ』と判断された。他の女子高生にウラヤマシイ気持ちを起こさせる可能性がある。私はあえて『ありがとう』の一言も言わないようにした。さらに念には念を入れ、保健室で養護の先生に何を聞かれても返事はしなかった。優しそうな養護の先生は、勝手に勘違いして言った。 「落ち込む気持ちは痛いほどわかる。私があなたの立場でも、明日、学校に来る勇気がないかも。何も話したくない気持ちもわかる。気にしないで。ゆっくり休んで。放課後、みんなが帰るまで、ここにいるといいわ。」
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